2020年11月号掲載
仕事の哲学 働く人が自ら考え、行動する会社とは
著者紹介
概要
今、日本で進められている「働き方改革」に、キヤノン電子社長が物申した書。いわく、小手先の改革では、働く人も企業も不幸になる。単に長時間労働を是正すればよいのか。ときに寝食を忘れて励むのは、仕事で成果を出そうとすれば当然の話だ、等々。自らの経験に裏打ちされた、皆が幸福になる働き方・仕事の哲学を語る。
要約
「日本人は働きすぎ」ではない
2018年6月に働き方改革関連法案が可決され、2019年4月から順次施行されている。その趣旨は、生産性を高める一方、働く人たちの暮らしを守り、豊かにするというものである。
趣旨には大賛成だ。しかし、小手先だけの働き方改革では、働く人も企業も不幸になりかねない。
働き方改革の問題点
例えば、働き方改革の取り組みの1つに「長時間労働の是正」がある。これは大変意義のあることだが、この問題には注意が必要だ。長時間残業や休日出勤を罪悪視しすぎると、「できるだけ働きたくない」と考える人が増えてしまう気がする。
多くの会社の人事担当者は、社会的風潮を受けて、社員を休ませる制度を作ろうとする。これでは「全力で働こう」という意欲がどんどん薄れ、楽することを考える社員ばかりを増やしてしまう。
また、「パワハラ」という言葉も、本来の使い方から逸脱し、働かなくていいムードを助長している。先日、ある幹部社員の提出したレポートが稚拙だったので、「バカか? お前は!」と記し、問題点を指摘して戻したところ、「これはパワハラになりますね」と、別の幹部に言われた。
きちんとした信頼関係が存在する間柄において「バカか」と一言、思いを込めたメッセージを記すことも許されないなら、部下の指導は十分にはできなくなってしまう。
「欧米人は働かない」という誤解
「日本人は欧米人に比べて、時間的にかなり多く働いている」と考えている人が多い。だが、これは大いなる誤解だ。確かに欧米人はバカンスで2~3週間の休みを取るが、普段は日本人より働く。
欧米人の働き方でもう1つ日本人が誤解しているのが、「欧米人は頻繁に転職する」というものだ。転職を重ねながらキャリアアップを目指すと思われがちだが、実際は優秀な人ほど転職しない。
転職を繰り返すのは本当に優秀な人ではなく、2番手や3番手の人たちだ。特に多いのが3番手で、その多くは他社からスカウトされて転職する。だが、働きだすと、会社から「使えない」と判断されて見切られるケースが少なくない。
日本と欧米の採用システムの違い
「雇用の流動化」も、働き方改革の目指す方向の1つだが、これを成功させるには、採用側の問題も考える必要がある。
欧米と日本の採用システムは、大きく異なる。アメリカでは現場を統括する部長やマネージャーがどんな人材が何人必要かを決め、自分で募集をかける。そして信用ある人からの紹介状を持った候補者から優先的に面接し、さらに紹介状を書いた人に連絡して、自分の求める人材か否かを確認する。つまり採用側は、欲しい人材の明確なイメージを持っている。そして採用した人の能力が求める水準に達していなければ、すぐクビにする。