2004年8月号掲載
名経営者が、なぜ失敗するのか?
Original Title :Why Smart Executives Fail
著者紹介
概要
本書には、世界的な大企業、一流企業がなんと単純な理由で大失敗をしでかすのかという事例が、これでもかといわんばかりに登場する。これだけ多くの失敗事例を類型化されると、確かに失敗しやすい局面、共通する“失敗の本質”のようなものがあることが見えてくる。経営者だけでなく、マネジメントに携わる人全ての必読書だろう。自戒のために。
要約
なぜ新規事業は失敗するのか?
1990年代初頭、手のひらサイズのコンピュータ、いわゆるPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)が話題になった。
当時、名経営者として名高いジョン・スカリー率いるアップルコンピュータは、通信会社などから巨額の資金を集め、同社の人材を選り抜いてゼネラル・マジック社を設立し、PDA市場に乗り出した。だが、前途有望で強力な基盤を持った新規事業は、はかなく消え去ってしまった。
モトローラの技術者バリー・バーティガーは、カリブ海での休暇中に携帯電話がつながらないと妻がこぼしたのがきっかけで、画期的な計画を思いついた。66個の衛星を使い、地球上のどこでも携帯電話が使えるようにするイリジウム計画だ。
計画は経営陣の支持を得て、91年モトローラはイリジウムLLCを設立、事業が始まった。98年には、当時のゴア副大統領が最初の電話をかけるというセレモニーを開き、イリジウムのサービスは華々しくスタートした。だが結果は散々で、翌年イリジウムは会社更生法を申請した。
韓国財閥サムスングループのリー会長は、95年に自動車業界への参入を表明した。だが、韓国の自動車産業は現代(ヒュンダイ)、大宇(ダイウー)、起亜(キーア)の3社による寡占状態が続いていた。しかも、国内の自動車各社はすでに過剰在庫を抱えていた。当然の如く、サムスン・モーターズは事業開始時から巨額の赤字を出し、99年、銀行管理下に置かれた。
インターネット・ブームのさなかに生まれたオンライン新興企業ウェブバンは、ゴールドマン・サックスなどの錚々たる投資家グループの後ろ盾を受けて、食品雑貨をはじめとする小売業界にネット革命を起こすはずだった。しかし、創業からわずか25カ月後に会社更生法を申請した ── 。
これらは、全て異なる業界における新規事業の失敗例だが、その原因は驚くほど共通していた。
所有と経営の混同
4社のいずれにおいても、経営者たちは大株主でもあった。企業の所有者が経営の座につくと、所有と経営の混同によって、問題が起きやすい。
例えば、サムスンの場合、社員も幹部も大部分が、自動車の製造販売について競争力を持たずに参入するのは危険だと反対していた。だが、誰も公然と会長の判断に反対を表明できなかった。
オーナーCEOが鶴の一声を放つ時、経営の合理性は二の次になり、オーナーの“好み”が優先しかねない。リー会長は自動車好きで有名だった。
所有と経営の混同は、取締役会にも当てはまる。