2005年6月号掲載
ジョイ・オブ・ワーク 組織再生のマネジメント
著者紹介
概要
現在、成果主義の大きな問題の1つとして指摘されているのが、社員の“やる気”の喪失である。本書はこの問題に、1つの解答を与えてくれる。著者は「QC」の生みの親デミング博士の直弟子の1人。「成果」よりも、「Joy of Work(仕事の喜び)」による「協調」をもとにした小集団活動を通じて、経営の質を上げる方法を提唱する。
要約
国際競争力をも左右するTQM
組織体に競争力をつけるには、そこで働く個々人が「Joy of Work(仕事の喜び)」を体現することが不可欠である —— 。そう説いたのは、日本製造業の恩人で、戦後日本の品質と生産性に目覚ましい向上をもたらした「TQC(Total Quality Control)」の専門家、デミング博士である。
日本で発展したTQCは、1980年代になると全米に“デミング哲学”として広まり、後に国際的に広がって「TQM(Total Quality Management)」と呼ばれるようになった。
80年代、日本はTQCをもとに高成長を遂げ、米国は高品質の日本製品との競争に敗れる。だが、その後、80年代後半から90年代にかけて、米国は急速に国際競争力を回復した。その最大の原因は、デミング博士が提唱したJoy of Workの復活による生産性の向上にある。
デミング哲学の主なポイントは次の8つである。
- ①組織体は競争力を維持するために、常に向上し続けなければならない
- ②品質が上がれば、生産性はおのずから上がる
- ③同じ組織体の異なる部門は、同じ目的のために協調しなければならない
- ④品質は検査によって向上するのではなく、はじめから工程に織り込まれなければならない
- ⑤仕入先を1社に絞る方向に努力し、長期的な忠誠と信頼の関係に基づくようにしなければならない
- ⑥人間の能力は簡単に測れるものではなく、安易な成果主義は止めなければならない
- ⑦数字や数値目標による経営を止めなければならない
- ⑧数量だけによる管理や、年次評価や、メリット評価等の従業員の誇りを奪うような諸障害を取り除かなければならない
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上記の通り、日米の競争力はわずか十数年で逆転した。その理由として、次の点が挙げられる。
すなわち、日本ではTQCやTQMといっても、多くの場合、製造業の製造部門で行われたにすぎないのに対し、米国では製造業だけでなく、ホテル、通信、銀行、小売といったサービス産業にもTQMが深く浸透している、ということである。
ではなぜ、日本ではサービス産業にそれらが普及していないのか?
まず、Qualityを「品質」と訳したことが最大の誤りだった。Qualityは「質」であって「品質」ではない。品質という意味合いから、品物の質と理解され、製造業が連想されたのである。
従って、同じ製造業で働いていても、非製造部門の人々のQC活動は限られていた。
また、日本がタテ社会であったため、工場で行われたことが非製造部門に浸透しなかった。