2005年11月号掲載
ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル
著者紹介
概要
世界経済が大きく変貌する中、どうすれば日本は未来を切り開いていくことができるのか? 本書は、その答えをカリフォルニア・ゴールドラッシュに学ぶというユニークなもの。ゴールドラッシュの歴史を紐解きながら、成功する条件とは何かを探っていくのだが、「ITは21世紀のゴールドラッシュ」と位置付ける著者の主張が、明快に、説得力を持って迫ってくる。
要約
金が発見された!
19世紀に起きたカリフォルニア・ゴールドラッシュの歴史を紐解く時、最初に登場するのは、ジョン・サッターという名のドイツ人である。
1834年に米国に渡った彼は、サクラメントの谷が肥沃であることを発見し、その開墾許可を得た。彼の夢は、この地に農業帝国を築くことだった。
その夢がほぼ実現しようとしていた48年、運命の事件は起こった。所有地に建設しつつあった製材所の水路で、使用人が金を発見したのだ。
彼は秘密を守るよう、使用人に厳命した。しかし、秘密は漏れ、人々が押し寄せた。彼の築き上げた農園は、侵入してきた金採掘者によって踏みつぶされ、全財産は暴徒によって略奪された。
サッターの運命は、無情としか言いようがない。しかし、彼の失敗から、ゴールドラッシュの最初の教訓を学ぶことができる。
金の発見が農場の将来に与える影響を、彼が憂慮したことはほぼ間違いない。しかし、そうした懸念に対して、何の対策も講じなかった。
恐らく彼は、思考を停止してしまったのだ。つまり、心配は心配としてさておき、一方で普段の仕事を続けることにした。
「あまりにスケールの大きな問題に直面した場合に、思考が停止する」というのは、決して不思議なことではない。これは「日常性への執着」と呼べるだろう。将来に重大な問題が予想されても、当面今のままで続きそうなら、人間はそれまでの仕事のパターンを続けるものである。
もう1つ指摘できるのは、彼が農場に執着していたことだ。「長い年月にわたって投下してきた多大な出費と努力が無に帰してしまうことは、何としても避けたい」と思ったのだろう。だから、それまでの人生コースを転換できなかった。
過去の時点で行った投資のコストは、「サンクコスト」と呼ばれる。「サンクコストを忘れよ」とは、あらゆる経営指南書が指摘することだが、これに従うのは難しい。
そして、この「サンクコスト」と「日常性」への執着こそが、大変化に直面した人間の判断を誤らせるのだ。