2005年11月号掲載
プロファイリング・ビジネス 米国「諜報産業」の最強戦略
Original Title :NO PLACE TO HIDE
著者紹介
概要
ワシントン・ポスト記者が、監視社会への道を突き進む米国情報社会の実相を描き、全米でベストセラーとなった書。個人情報をかき集め、分析し、商品化する「プロファイリング・ビジネス」によって、急成長を遂げる個人情報産業、それと連携を深める政府機関、プライバシーを侵害されていく市民…。その実態が詳細に紹介されている。
要約
監視社会への道を突き進む米国
「9.11テロ」以降、米国の政府当局者は、テロリストを突きとめ国土の安全を強化するために、民間企業とのコンタクトを開始した。
情報技術の専門家たちは、コンピュータシステムを総動員して警察や諜報機関に協力。金融機関はクレジットカードの動きを調べ、銀行は顧客の口座を精査した。
また、「アクシオム」「チョイスポイント」「セイシント」などの大手データ企業は、膨大なデータを探索して、米国にいる容疑者の資料を集めた。
そして、テロ対策として制定された米国愛国者法では、盗聴・捜索の権限をほぼ無制限に政府に認めた。さらに、国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は、新たに全情報認識プロジェクトに着手して、地球規模での監視に取りかかった。
「国の安全保障のためなら、自分の自由はある程度犠牲にしてもいい」というのが、国民の合言葉になった。そのため、政府がどれほど大胆に個人情報にアクセスしても、市民はこれを黙認し、この事態が招く結果を憂慮する者も少なかった。
米国市民の生活全般に介入し、調査しようという政府の権限は、今後も拡大されていくだろう。同時多発テロに関する調査委員会は、「身分証明の規格化、指紋など生体認証の普及、情報共有体制の整備、情報システムの統合は、国民の安全には欠かせない措置だ」と結論づけている。
だが、監視には対価が伴う。それは大勢順応の雰囲気を助長し、常に見られているという不安感を募らせる。このため1970年代に議会は、FBIなどによる諜報活動を禁止し、情報とプライバシー保護に関する法案を成立させた。
しかし、9.11テロ以降、新しい法的機関が設立され、政府と個人情報産業との連携は深まっている。
政府には不可能な個人情報の収集が、私企業には可能であり、また私企業は、その行動や失敗に責任を負う必要がない。これらの企業の能力は、もはや国の判断、法律の枠を超えている。そのツケを国民は、今後長い間、背負うことになるだろう。
アクシオム
アーカンソー州のアクシオムは、データ産業の業界で10億ドル企業としての地位を固め、ほぼ全ての成人のデータを蓄積している。米国人は同社を知らないかもしれないが、アクシオムの方は米国人のことをあますところなく知っている。
同社の電子関係倉庫には、1000兆バイトの情報が保管できる。この膨大なデジタル情報の核心となるサービスは「インフォべース」と呼ばれる。