2006年3月号掲載
場の論理とマネジメント
著者紹介
概要
マネジメントのスタイルには、日米の間に基本的な違いがある。米国型の経営がシステムを重視するのに対して、日本型の経営はプロセスを重視する。ラグビーのゲームのように、皆でプロセスを積み上げていくのが日本のスタイルである。この日本型経営に不可欠なのが、人々が情報を交換し、刺激し合う空間=「場」だ。強い組織を作るカギは、この場にある!
要約
空間は情報に満ちている!
大勢の人間が集う空間には、情報が満ちている。その空間を共有する人々が様々な観察をし、様々な情報発信を半ば無意識にしているからだ。
人々が交わす言葉はもちろん、身体の仕草、もの言わぬ行動そのものまでが、実は様々な情報を伝える。人間が高度な感覚器官と多様な情報処理能力を持った優れた情報装置だからである。
そうした人間の能力と空間の特性を、組織の経営にうまく活用している企業がある。例えば ——
デスクの上に本立てを置くな —— ソニー
30年以上前、ソニーのVTR開発プロセスでのエピソードである。1972年、河野文男(技術準備室長)は、ベータマックス方式の戦略商品の試作から製造までを任された。VTRは典型的なメカトロ製品で、メカ技術とエレクトロニクス技術という2つの分野のエンジニア49名が集められた。
河野は技術者間の連携をよくしようとフロアに仕切りを設けず、デスクを2列に並べ、「デスクの上に本立てを置かないようにしてくれ」と指示した。「お互いの顔が見えるようでなければ、コミュニケーションが損なわれるだろう。それでは、いいアイデアは出てこない」と彼は説明した。
その上、同じ分野のエンジニアを一塊りの席に集めることを止め、電気系、機械系を混在させた。その方がお互いの間に生産的な刺激が生まれる。
河野は、仕事の空間のしつらえに心を配り、刺激と連携がそこから生まれるように考えたのだ。
河野がフェイスツーフェイスのコミュニケーションの容易さを重んじた理由は、2つある。
1つは、思いついたら「すぐに」コミュニケーションができることの大切さである。
もう1つは、フェイスツーフェイスでないと真剣さ、意図が伝わりにくいこと。人は、相手の表情から意図や真剣さを読み取れる。また、他人の行動から様々な解釈を引き出せるが、それには行動を「自然に」観察できる状況が必要なのである。
巨大キャフェテリアを本社の中心に —— ノキア
フィンランドの携帯電話メーカー、ノキアの本社ビルには、約1000人を収容できる巨大なキャフェテリアがある。