2006年6月号掲載
この国のけじめ
著者紹介
概要
本書は、大ベストセラー『国家の品格』(新潮新書)の著者・藤原正彦教授が、03年からの3年間、新聞や雑誌に寄稿したエッセイを集めたもの。すなわち、『国家の品格』の母体となった論考集である。時事評論から教育論、私生活から作家批評まで、幅広い分野を網羅してあり、『国家の品格』への理解がさらにすすむ1冊。
要約
愚かなり、市場原理信奉者
バブル崩壊以来、市場原理さえ浸透すれば経済は回復するとして、改革の嵐が吹き荒れている。
「官から民へ」「小さな政府」「中央から地方へ」なども、市場原理を保障するためのものだ。
市場原理と自由競争は一体だから、その結果、わが国は激しい競争社会に突入した。
市場原理の最先進国米国では、上位1%の人が国富の半分近くを占有している。能力の低い者は負け続け、必然的に極端な貧困層が形成される。
共産主義でないから、貧富の差はあって構わないが、あまりにも大きな格差は社会的不公正だ。
ところが、格差を是正しようとしても、政府は「小さな政府」となり弱体化するから、きめ細かな施策を講ずることができない。
この市場原理の奔流の中で、人々は勝ち馬に乗ることだけを念頭に置くようになった。
そして近頃、人々は勝ち馬に乗ることに汲々とするばかりでなく、乗り損ねた人を嘲笑するようにもなった。
郵政改革の時は、劇的にこの風潮が現れた。改革案への賛否で割れた自民党では、多くの議員が優勢な側につこうと、形勢判断に躍起となった。政治的信念より勝ち馬優先、ということである。
反対を貫いた人々は総選挙で公認されず、小泉大勝後は、キャスターらが彼らに対し、「政局観を欠く」など嘲笑に近い言葉を浴びせた。
かつては、形勢を見て有利につこうとする者は、風見鶏、日和見と言われ、見下されたものである。