2006年8月号掲載
花王の「日々工夫」する仕事術
著者紹介
概要
これまでの“花王本”との違いは、何といっても、現場レベルのリアルなエピソードの豊富さにある。著者は8年間、花王の情報発信業務に携わった経歴の持ち主。一般的なイメージとは裏腹に、「カリスマ社員などほとんどいない」という同社の「一般的な社員の仕事ぶり」を具体的に紹介し、そこに潜む「花王の強さの秘密」を明らかにする。
要約
成功を支える花王式「日々工夫」
花王の成長の秘密は、「当たり前のことを当たり前にやる」強みだといわれる。
そしてもう1つが、地道に日々の業務に取り組みながら、“自分なりに工夫”すること。そんな個人の工夫が、チームとして、会社としての「総合力」に結びついている。
花王社員による「日々工夫」。それは、例えば次のようなものだ。
商品開発
・部署を越えた多くの人で検討する
衣料用粉末洗剤の開発を担当していた研究員Yさんは、ある時、母親が洗濯をする際に“粉末洗剤と水を瓶に入れて振ってから”使っているのを見た。その後、妻の実家を訪れた際にも、義母が洗濯機に洗剤を入れて、水が入り出したところで“手でかき混ぜ始めた”のを目にする。
「消費者は粉末洗剤が溶けにくいと感じているのでは?」と疑問を抱いたYさんは、色々考えをめぐらせた結果、「砂糖や塩のように水にさっと溶ける洗剤」というイメージをつかむ。
そして、この着想を別の研究所の同僚に話した。部署や上下関係を超える「ヨコ展開」が持ち味の花王では、研究所のフロアも仕切りのない「大部屋方式」となっており、違う研究所の研究員同士が気軽に話せる。そして、別の研究所から持ち込まれた話でも、プロジェクト的に柔軟に対応する。
この時も、研究部門・商品開発部門が総力をあげて開発することになった。その結果、従来よりも数倍溶けやすい洗剤『アタック マイクロ粒子』(2001年発売時の商品名)が生まれたのである。
・「世界初」を考え続ける
シートを貼って小鼻の毛穴の汚れをとる『ビオレ毛穴すっきりパック』。汚れをとるカギは、花王が独自に開発したポリマーという素材にある。
当初、ポリマーは効果の高さこそわかっていたものの、いかに商品化すればよいか関係者は悩み続けていた。既存の「チューブから出して顔にのばすタイプの商品」への応用を試みたがうまくいかず、素材として持て余され気味だったのだ。
そこで、ある開発担当者がそれまでの発想を転換してみた。のばす手間がいらない、貼るだけのシート型にしてみたらどうだろう ── 。この発想が、「シート状の毛穴パック」という世界的にもユニークな商品を生むことになった。
こうした発想は、偶然湧き上がるものではない。常に「何か新しく生活者・消費者に驚きと喜びを提供するものができないか?」と考え続けるからこそ、ひらめきに結びつく。