2006年12月号掲載
歪曲報道 巨大メディアの「騙しの手口」
著者紹介
概要
サブタイトルは、「巨大メディアの『騙しの手口』」――。帯には、「あなたは、まだ彼らを信じられますか?」という刺激的なコピーが踊る。大新聞や大テレビ局の報道を、鵜呑みにしてはいけない、というのだ。自ら新聞記者として海外駐在経験も持つ著者が、実際の記事を引用しながら、具体的に問題点を指摘し、日本のジャーナリズムの大いなる欠陥に迫る。
要約
ベタ記事が教える真実
新聞はベタ記事が面白い、といわれる。
ベタとは最小1段見出し記事、ボツ一歩手前の記事を指す。しかし、時に重要記事だが、目立ってほしくないという思いを込めたベタ記事もある。それが、その新聞社の姿勢を鮮明にする場合もあるから、面白いのである。
例えば、以前、北朝鮮の首領の息子が不法入国しようとして捕まった。日本には横田めぐみさんの両親のように、北朝鮮にわが子を拉致された家族がいる。誰だって「めぐみさんらと身柄交換」というアイデアは思い浮かぶだろう。
それで、『産経新聞』は5段見出しでそうした家族の声を載せた。『朝日新聞』も横田めぐみさんの家族らが政府に働きかけたという記事を載せたが、これがベタだった。
同紙は、めぐみさん拉致の証言が飛び出した時も、2カ月近くそれを報じなかった。今回も載せたくない、でもそう露骨にもできないから、という心情がそのベタ扱いに滲んでいた。
まさにベタの面白さだが、「フォード社販売禁止を申し立て/ベネズエラ」というベタ記事は、別の意味で考えさせられた。
発端は2000年夏。フォード社のSUV、エクスプローラが走行中、タイヤが剥離パンクして横転、全米で88人が、南米ベネズエラでも35人が死亡していることが判明した。
フォード社はいち早く「原因はファイアストン社のタイヤの欠陥だ」と指摘。ファイアストン社はそうした非難に納得はしなかったが、事は人命に関わる。まずは、タイヤを自主的にリコールした。日系企業らしい誠意の示し方だった。
同社は、米議会の公聴会でも日本的対応を取った。フォード社が一方的に「タイヤ欠陥が事故原因」と主張したのに対して、ファイアストン社の小野会長はまず、事故で死傷した人々へ謝罪した。
その上でタイヤの欠陥を否定し、フォード社がエクスプローラ装着のタイヤに限って15%も低い空気圧を指示していたこと、同じタイヤを装着した別車種では剥離がなかったことを主張した。
だが、「ごめんなさい」で始まった小野会長の発言は、自ら非を認めたと取られ、翌日の米主要紙は日本企業への非難一色でうずめられた。