2008年5月号掲載
会計不正 会社の「常識」 監査人の「論理」
著者紹介
概要
カネボウ事件、ライブドア事件、日興コーディアル・グループ事件…。相変わらず会計不正が続発している。会計不正はなぜ起こるのか、監査法人はなぜそれをチェックできないのか。かつて中央青山監査法人の代表社員だった著者が、同社消滅のきっかけとなったカネボウ・山一證券などの粉飾事件を例に取りながら、会計不正が起こる要因や背景を分析する。
要約
経営者はなぜ会計不正をするのか
近年、カネボウ、あるいは日興コーディアル・グループで、会計不正が表面化した。
なぜ、企業は会計不正を行うのか? そのいくつかの要因を挙げると ——
会社のため
日本の場合、不正を指示した経営者も、共犯者も、不正に目をつぶった監査人も、ほとんど何の利得も得ていないケースが少なくない。彼らは、組織の大義のために不正を行っているのである。
どんなに立派な会社でも、体面を保つため、あるいは急場をしのぐために、過去に一度くらいは財務諸表を調整したことがあるのではないか。
「会社のため」とは、事件が発覚した後になれば、第三者からは「そんなつまらないことで」と誹られるような理由かもしれない。
だが、会社に長くいた人にとっては、生きがいも何もかもが会社にある。そんな会社が消滅してしまうかもしれないということに耐えられないのだろう。
このように、不正の行為者が「会社のため」と信じている時、正常な判断ができない。そして、その行為が不正と知りつつ実行するのである。
閉鎖性
カネボウ、山一證券などの会計不正には、「閉鎖性」の問題が感じられる。この閉鎖性は、組織としての結束が固い場合や、組織が大きくて組織中枢が外部と接触しないような場合に生じる。
そうした組織では、中核メンバーを中心に根強い特有の風土が形成され、組織が一般社会から遊離した存在になる。そして、学閥や出身部門閥など様々な派閥が形成されたりする。
その派閥同士の関係が悪くなると、純粋に経営的判断をすべきところに派閥政治的な要素が混入してくる。これがひどくなると、外部から様々な声が聞こえてきても経営中枢には届かない。
このような会社では、適切でない会計処理を監査人が指摘しても、それを今やれば会社が潰れるとか、社長の首が飛ぶとか、組織内の論理が優先し、正論を退けてしまう。