2008年8月号掲載
アジア三国志 中国・インド・日本の大戦略
Original Title :How the Power Struggle Between China,India and Japan will Shape Our Next Decade
著者紹介
概要
中国、インド、日本が、21世紀のアジアの主導権を巡って、三つ巴の争いを繰り広げる ―― 。ベストセラー『日はまた昇る』の著者ビル・エモット氏が、アジアの今後の勢力図を描き出す。いずれも歴史的に複雑な因縁を抱える3国それぞれの強みと弱み、国家戦略、今後の課題を明らかにし、アジアにはいかなるリスク、そして可能性があるかを解説する。
要約
アジアの新パワー・ゲーム
ゴールドマン・サックスの分析によれば、中国とインドは、現在のGDP(国内総生産)年間成長率8~10%をしばらく維持するという。
やがて中国の成長は鈍るが、それでも5%程度の高い率にとどまる。だが、人口が増え続け、平均年齢が圧倒的に低いインドは、なおも10%以上の成長を続ける。わずか10~15年の間に、両国の経済生産は3倍になる見込みだ。
アジアはこれから豊かになり、強くなるだろう。だがそれは、世界の力の相対的な均衡には、厄介な問題となる。米国も欧州も、これまでのようには世界情勢を支配できなくなる。
もっとも、アジアが一体となって、今後の影響力の向上を米国や欧州に要求するわけではない。アジアは分裂している。
今の中国、インド、日本のように、アジアに強国が同時に3つ存在することは、かつてなかった。この3国が自然に共存できるなら問題はないが、そうではない。むしろ、その逆だろう。
これまでは、日本がアジアで最も豊かで、アジアで唯一の世界的な大国の候補だった。
だが中国の台頭でそれが変わり、さらに5年ほど前から、グローバルなパワーを駆使する野望と能力を備えた第3の国、インドが登場した。
これによりアジアは、日本・中国・インドという3大勢力のバランスに左右されるようになった。
アジアの台頭が地域と世界全体に平和と繁栄をもたらすものになるのか、それとも紛争と混乱をもたらすものになるのかが、それによって定まる。
勢力拡大を図る3国
今繰り広げられている新パワー・ゲームでは、誰もが自分の地歩を固め、長期の優位をできるだけ拡大しようと画策している。
例えば2007年、ミャンマーで苛烈な統治に抗議した仏教僧や反対派数千人を、軍事政権が投獄・虐殺した際、国際社会は非難したが、インドと中国はそれに同調しなかった。