2008年10月号掲載
経営意思決定の原点
著者紹介
概要
意思決定に関して、企業が陥りがちな失敗は5つある。「決められない」「決め急ぎ」「決めたはず(実行が伴わない)」「決めっ放し(評価や見直しをしない)」「決めすぎ(頻繁に変えすぎ)」の5つだ。では、なぜ企業はこれらの“病”に陥るのだろうか? その原因を、心理的な考察を交えながら分析し、そして、経営意思決定力を高めるためには何をすべきかを説く。
要約
意思決定の心理的落とし穴
意思決定に関する書籍を読んで勉強し、できる限り合理的に決定したはずなのに、後で見るととんでもない決定をした、ということはよくある。
それは、人間の意思決定においては、例えば次のような「心理的な落とし穴」があるからだ。
選択的認識
経営の重要な意思決定をする際は、事実や情報をきちんと集め、分析することが不可欠である。
ここで問題なのは、この「事実」という代物だ。
例えば、全く同じワインを飲んでいるにもかかわらず、値段が高く表示された方がおいしいと感じたり、昨日までは「真面目そうな人」だったのに、殺人の容疑者とわかると、「何を考えているのかわからない人」になったりする。
つまり、自分の持つフィルターを通して、選択的に事実を拾うのが人間なのである。自分の見方にそぐわない情報は過小評価され、自分の見方に合った情報ばかりが目に付く。事実とは、そうしたフィルターを通して残されたものなのだ。
事実や情報を集めて分析することが、より良い意思決定につながるのは間違いない。だが、その事実は「誰にとっての」「どういう立場から見た」「どのような」事実かを確認する必要がある。
記憶とヒンドサイト・バイアス
「記憶」を国語辞典でひくと、「過去に経験したことや一度覚えたことを、時間がたった後までも大体その通りに思い出せること」とある。
だが、これは正しくない。記憶は、思い出す時に本来なかったものが加えられたり、逆にあったものが削られたりして「再構成」される。
こんな話がある。英国の心理学者が心理学会での議論を録音し、2週間後、全参加者にその議論に関して覚えていることを書き出してもらった。
その結果を録音内容と比較すると、参加者の大半は議論された内容の90%以上を忘れており、残りの10%も半分近くが間違いだった。