2009年10月号掲載
エビデンス主義 統計数値から常識のウソを見抜く
- 著者
- 出版社
- 発行日2009年7月25日
- 定価836円
- ページ数183ページ
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著者紹介
概要
無差別殺人が増えている、子供の自殺が増えている、結婚しても子供をつくらない女性が多い…。これらは、世間では事実であるかのように語られているが、実はウソ。こうした“常識のウソ”を見抜く方法として、著者が勧めるのが、統計数値や実験結果などの「エビデンス」(根拠)に基づく思考法だ。この思考法によって世の中を眺めると、意外な事実が見えてくる!
要約
「EBM」に学ぶ
医学の世界では近年、「EBM」(Evidence- Based Medicine:根拠に基づく医療)というものが注目されている。今、行っている治療が、客観的に良いものであるという根拠を求め、それに基づいて行おうという考え方だ。
例えば、転移のない乳ガン治療の場合、かつては乳房も周りのリンパ節も全部取るという手術が一般的だった。しかし、5年生存率を比べると、乳房は残してガンの部分を取り、その後に放射線をかける治療と変わらないことがわかった。
現在では、多くのガンについて、手術、放射線、化学療法をどう組み合わせると5年生存率が一番高くなるか、というデータベースができつつある。
すると、自分たちがいいやり方だと信じてきた手術法より、そのデータベースの根拠に基づいた手術を行うべきだという考え方が強まってきた。
このEBMの考え方は、医学の常識をいろんな形で変えつつある。
理論よりも根拠
EBMの必要性を決定づけたものの1つに、心筋梗塞後の抗不整脈薬の使用についての調査がある。
心筋梗塞の患者は、急性期を過ぎてから突然不整脈になって死ぬことが珍しくない。そのため患者には、抗不整脈薬を投与すべきであるという理論が、医者のコンセンサスになっていた。
だが、米国の国立心肺血液研究所が1986年から始めた調査の結果では、抗不整脈薬を投与されたグループの方が、偽薬(薬効のない偽の薬)を投与されたグループに比べ、死亡率が高かった。
これには、様々な理由が考えられる。その1つに薬の副作用の問題がある。不整脈を防いでも、副作用の悪影響の方が大きければ、薬を使ったグループの方が死亡率が高くなってしまうのだ。
人間の体というのは、薬を使うことで何が起こるかわからない。そのため理論に従って薬を使うより、長期間の追跡調査をした上で、一番確率的に予後のいい治療を行うべきだ、というEBMの考え方が強まっていったのである。
日本ではエビデンスが無視されている
残念ながら、日本の医療界ではEBMが軽視されている。そのことで生じている問題の代表が、いわゆる「検査数値至上主義」だ。