2009年12月号掲載
「エンジンのないクルマ」が変える世界 EV(電気自動車)の経営戦略を探る
著者紹介
概要
環境問題への関心が高まる中、「EV(電気自動車)」が注目されている。排出ガスが一切出ないこの理想のエコカーは、次世代の一大産業に育つ可能性が高い。内外の自動車メーカーは先陣競争を展開し、米国や中国では国を挙げて支援を行う。そんな画期的なクルマがどんな未来をもたらすのか、開発の現状と今後、そしてEVが産業や社会に与える影響を考察する。
要約
EVの世紀は誰の手に
2009年は、エコカーに社会的関心が集まった年である。1990年代から各社が開発を競い合った成果がようやく実を結んで、次々と次世代自動車が発表された。
HV(ハイブリッド車)ではホンダのインサイトとトヨタの3代目プリウスが相次いで発売され、その好調な売れ行きと販売競争が話題を呼んだ。
6月には三菱自動車がEV(電気自動車)の「アイ・ミーブ」、富士重工業が「プラグイン ステラ」を同時に発表、日産自動車が8月に同じくEV「リーフ」を発表した。
「エンジンのないクルマ」であるEV。この新しいクルマの誕生の持つ意味は、単に自動車に新たなラインアップが加わったというだけではない。
内燃機関を用いないため、排出ガスを一切出さない。低炭素社会の実現に大きく寄与するとともに、社会システムを変革させ、産業構造を一変させる可能性を有している。
しかも、現在世界で最も進んだ実用化技術は日本にある。日本がこのアドバンテージをいかに活かすかは、自動車産業だけでなく、社会全体が関心を持ち、真剣に関わるべきテーマといえる。
グリーンニューディール政策と米国の狙い
現時点では日本が実用化技術で1歩リードしているが、競争は甘くない。米国もまた、この巨大産業の行く末を見てスタートラインに立っている。
09年、米国でオバマ政権が誕生した。その政策の目玉が、グリーンニューディール政策である。
これには、10年間で1500億ドルという巨額の投資による経済刺激効果とグリーン雇用の創出により、景気を急回復させる狙いがある。
米国がさらに期待を寄せるのは、自動車産業の復興であろう。PHEV(プラグインハイブリッド車:HVより電気容量の大きい電池を用い、電池とエンジンを併用する自動車)の開発と普及を政策の中心に位置づけているのがその表れである。
内燃機関エンジンの乗用車では、欧州や日本勢に押されて、環境規制の厳しい時代に取り残されると考えている。HV開発でも日本、韓国に先を越されており、この段階で、国力を挙げて産業育成をし、地位を逆転する狙いが大きい。