2023年12月号掲載
半導体ビジネスの覇者 TSMCはなぜ世界一になれたのか?
Original Title :台積電為什麼神?:揭露台灣護國神山與晶圓科技產業崛起的祕密 (2021年刊)
著者紹介
概要
TSMC(台湾積体電路製造)は、半導体の世界で“唯一無二”の存在だ。あらゆるテクノロジー製品に必要な半導体を世界中に供給し、圧倒的シェアを誇る。なぜ、こんなに強いのか? 2万人もの技術者チーム、歩留まり率99%以上の生産技術、技術力とコスト優位性の両立…。競合他社を寄せ付けない、その強さの秘密を明かす。
要約
「国の守り神」TSMC
台湾には一企業にして「国の守り神」と呼ばれる企業がある。正式社名は、台湾積体電路製造股份有限公司、英語名はTSMCである。
同社は半導体ファウンドリー(顧客の設計データに基づき半導体の受託生産をするサービス)の最大手企業で、創業は1987年、モリス・チャン(張忠謀)が設立した。2020年の売上高は1兆3000億台湾ドル、営業利益は5677億台湾ドル。ここ10年の平均粗利益率は50%前後だ。
なぜTSMCは、大きく成長したのか
TSMCは世界中の技術集約型産業に深く入りこんでいる。コンピューター、エレクトロニクス、通信ネットワーク、航空宇宙、国防関係…。
これらの産業が生み出す製品の基幹部品の主要サプライヤーであり、テクノロジー製品のほぼすべては、TSMCなしには存在しないほど依存している。TSMCは、ファウンドリー市場で5割以上のシェアを誇り、他の十数社の生産能力を合わせても及ばない。
TSMCの技術面を見ると、初期は5μm(マイクロメートル。マイクロは100万分の1)プロセスからスタートし、今や先端の5nm(ナノメートル。ナノは10億分の1)プロセスに至っている。
現在、台南・南部サイエンスパークの工場では、3nmプロセスの量産テストを行い、新竹サイエンスパークでは、2nmプロセスの工場をつくる計画が進んでいる。5nmと3nmプロセスにおいては、世界のどの企業も真似できないレベルにある。
業界トップランナーへの道
1960年代、台湾は伝統産業からハイテク産業への転換期を迎えた。そのきっかけとなったのが一般に半導体として知られるICの出現と応用だ。
1970年代前半には、この半導体の設計を担う企業が活況を見せ始め、半導体設計を専門とするファブレス企業が次々と誕生した。
一方、半導体の設計から製造まですべてを自社で運営するIDM(垂直統合型デバイスメーカー)も続々と登場。その代表格はIBM、インテル、AMDで、これらの新興企業の台頭により、老舗半導体メーカーは勢いを失っていった。
1987年に設立されたTSMCは、「設計」「IDM」という既存のビジネスモデルと決別し、まったく新しいアプローチである「ファウンドリー専業」のビジネスモデルを導入した。
実は創業当初のTSMCは、大手半導体メーカーからは相手にされなかった。当時はIDMが成功していたため、IBMやインテルの専門家は、「ファウンドリー専業メーカーは、ローエンド向けのチップしかつくれないだろう」と高をくくっていた。