2011年4月号掲載
言葉でたたかう技術 日本的美質と雄弁力
著者紹介
概要
1953年、米国に留学した著者は、その後、フランスへも留学した。多くの欧米人と接する中、様々な議論、口論を経験したが、過去50年、一度も負けたことがないという。そんな「けんか上手」な著者が、勝つための弁論術を伝授。テクニックだけでなく、日本人がなぜ議論ベタなのか、我々「島国の民」の美点と弱点を論じたその内容は、優れた日本人論にもなっている。
要約
アリストテレスの弁論術
過去50年、欧米人とかなりの数の議論や口論を経験したが、私は一度も負けたことがない。つまり“けんか上手”だったのだ。
だが、初めからそうだったわけではない。悔しいことが沢山あっても、反論できなかった。英語が下手だったこともあるが、もう1つは、議論のやり方がわからなかったのだ。
言論による説得には3つの種類がある
1955年、米国に留学していた時のことである。
修士論文のための個人指導を受けることになり、まず小論文を書くよう指導教授に指示された。そして、それを書き上げたところ、「いい加減に書いたとしか思えない」と酷評された。
一所懸命に書いたのになぜ? もしかしたら、英語で考えて書いているつもりでも、日本語的発想に影響されていたのだろうか。
そこで、「英語論文の書き方、その背景にある考え方を学ぶには、何から勉強し始めたらよいのでしょう?」と尋ねたところ、教授が勧めたのが、哲学者アリストテレスの『弁論術』であった。
ギリシャの昔から、欧州では討論で物事が決められてきた。そして、討論に勝つには、論理的に構成された説得力のある弁論術が必要であった。
では、弁論術とは何か。アリストテレスは言う。
「弁論術とは、どんな場合にでも使用可能な説得の手段を見つける能力である」
そして、「言論による説得には3つの種類がある。第1は語り手の性格に依存し、第2は聞き手の心を動かすことに、第3は証明または証明らしく見せる言論そのものに依存する」と言う。
第1の「語り手の性格に依存し」は、語り手が信頼に足る人物だと思わせる、ということだ。