2013年5月号掲載
脳科学がビジネスを変える ニューロイノベーションへの挑戦
著者紹介
概要
近年、脳科学が進歩し、無意識下の意思決定や行動等、これまで明確でなかった脳の働きが明らかになってきた。こうした中、様々な企業が脳科学の研究に取り組み、その成果を活用しつつある。マーケティング、組織設計、グローバル化…。企業活動に脳科学をどう組み込めば成功につながるか、興味深い事例も交えつつ、ビジネスの視点から脳科学の知見を紹介する。
要約
意思決定の脳科学
最近の脳科学研究からわかっていることは、人間の脳は、人によって、男女によって、人種によって、職業によって異なるということだ。
例えば、ロンドンのタクシー運転手は、「海馬」という記憶に関係のある脳部位の後部が一般男性より大きいという研究がある。
彼らは、ロンドンの複雑な道を全て覚えておかねばならず、そのために空間記憶に関係する部位が大きくなっているのではないかといわれている。
このように、多くの研究者の継続的努力によって、様々なことがわかってきている。
意思決定は無意識に行われる
例えば、人はほとんどのことを無意識に行っている。心理学者ティモシー・D・ウィルソンは、人間の視覚、聴覚などの感覚器官には、同時に1100万個の情報が入ってくるが、その中で意識して扱っている情報は40個ほどだという。
何人かの心理学者や神経科学者によれば、私たちの認知活動の95%は無意識に行われており、意識しているのはわずか5%であるという。
この数字の信頼性は別にしても、圧倒的に無意識で行っている意思決定や行動が多いのは事実だ。
だから、アンケートなどの主観評価で意識に表れるわずかなこと(5%)を探るよりも、脳科学、心理学などの活用で圧倒的に多く(95%)の無意識を知ることの方が、重要だというわけだ。
0.5秒前に脳は意思決定している
人の意思決定のほぼ全ては無意識に行われているとすれば、実は意識して意思決定をしていると思っていることも、全て脳が決定した後に、意識に上っているだけということになる。
では、脳の意思決定からどれだけ遅れて意識に上がってくるのか。
様々な実験により、遅延時間は約0.5秒といわれている。人は、意識して意思決定をしたと考える0.5秒前に、脳はすでに意思決定を行い、命令を出しているということだ。