2014年2月号掲載
眠られぬ夜のために 第一部 〔全2冊〕
Original Title :FÜR SCHLAFLOSE NÄCHTE(ERSTER TEIL)
著者紹介
概要
スイスの哲学者で、『幸福論』の著者として知られるカール・ヒルティ。その彼が、眠れない夜を嘆くのではなく、普段忘れがちな自己反省の機会にしようと説き、安眠に誘う「眠られぬ夜のための思想」の数々を披露する。原著の刊行から100年以上たつが、自らの経験、思索に基づく言葉は深く、色褪せない。人が生きる上で何が大切か、貴重な示唆を与えてくれる。
要約
「眠られぬ夜」の真実
眠られぬ夜は、耐えがたい禍いである。
病人だけでなく、健康な者もそれを恐れる。というのは、主として規則正しい睡眠によって健康が保たれるのを知っているからである。
どうして不眠が起こるのか、一概にはいえない。
不眠はたいてい病気や、心配事や、不安な物思いから起こる。だが、時には、休息のとりすぎ、安逸な暮し方、いろいろな不節制などから起こることもある。
一体、眠りとは何かということは、我々にはわかっていない。ただ経験上、確実にわかっているのは、適度の眠りが健康を保つために必要であり、病気、特に神経系統の病気の際には、一番よい、欠くことのできない治療手段である、ということだ。
眠られぬ夜は「神の賜物」
不眠は常に禍いであって、できるだけ除かねばならない。
ただ例外は、その不眠が大きな内的な喜びから生じた時、もしくは、日頃は怠りがちな自己反省の静かな、妨げられない時間を与えるために不眠が授けられた場合である。
後者の場合、不眠は、人生最上の宝を手に入れるために軽んじてはならない貴重な機会である。眠られぬ夜に、自分の生涯の決定的な洞察や決断を見いだした人々は、限りなく多い。
イスラエルの賢者、ラビ・カニナは言っている。
「夜、目をさましている時や、独りで道を歩いている時に、安逸な思いに心をゆだねる者は、おのれの魂に対して罪を犯している」
つまりその人は、精神上の大きな利益を手に入れるまたとない機会を取り逃がすばかりか、無益な思いが招きやすい危険に身をさらすことになる、というのだ。