2014年3月号掲載
フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか
著者紹介
概要
イケメンにして、超絶技巧のピアニスト、フランツ・リスト。演奏を聴いた女たちは、彼が脱いだ手袋を奪い合い、舞台には宝石が投げ込まれたという。その熱狂の背景には、フランス革命後、主流となったブルジョワ的価値観の文化がある。音楽に精神性ではなく快楽を求め、集団化する聴衆。これら現代に通じる19世紀の特性を踏まえ、リストという人間を紐解く。
要約
神童の神話
何が女たちを狂わせたのか。
彼が脱ぎ捨てた手袋を奪い合い、花束の代わりに宝石が投げ込まれ、舞台に花吹雪を降らせるために、街中の公園から花がむしりとられた。
彼の名は、フランツ・リスト。
過去から未来における、全てのピアニストを凌駕し、その頂点に君臨するピアニストである。
とにかく、モテた。端正な顔立ち。厳かで、強い意志を感じさせる眼差し。だが、ただのイケメンではない。ピアノに向かえば、圧倒的な超絶技巧と、夢見るような甘い旋律に誰もが息を飲んだ。
ところが、これだけの人物にもかかわらず、その生涯は一般にほとんど知られていない ―― 。
神童の出現
1811年10月22日。父アダム、母アンナのひとり息子として、リストは生まれた。
父は、ハンガリーの豪族エステルハージ家に仕える役人で、音楽愛好家でもあった。
幼いフランツは生まれつき病弱で、両親は死を覚悟して棺を作らせたこともあったという。
その不安を一転させたのが、わが子の才能だ。
父の日記に、その神童ぶりが描かれている。