2021年4月号掲載

五輪書 全訳注

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概要

不敗の剣豪として知られる宮本武蔵。彼が遺した著作には、命がけの体験を通して究めた兵法の奥義、そして人生観が詰まっている。「我に師匠なし」「別れを悲しまず」「事において後悔をせず」…。一切の甘えを捨て、ただひたすら剣に生きた武蔵の言葉は、人生を生き抜く上で大切にすべきことを、私たちに教えてくれる。

要約

五輪書

 熊本市の西郊、金峰山の山ふところにある雲巌寺に、1つの洞窟がある。

 寛永20(1643)年10月10日、ひとりの武芸者が自分の余命の残り少ないことを悟って、その洞窟にこもり、『五輪書』といわれる兵法の指南書を書き始めた。武芸者のおよそ50年にわたる命がけの修行の総決算ともいうべき、兵法の極意書だ。

 武芸者の名は、宮本武蔵。彼は、『五輪書』の完成に2年を費やし、完成後、1カ月ほどして死んだといわれる。

五輪書とは

 『五輪書』は自らあみだした二天一流の兵法を書き記したものであり、仏教の「地・水・火・風・空」という言葉をかりた5巻から成っている。

 「地之巻」では、兵法二天一流の綱要を述べ、この兵法の理論的根拠を明らかにしている。

 「水之巻」では、二天一流と名付ける理由や、二天一流の太刀筋の大略を記している。

 「火之巻」では、敵に打ち勝つための技法を27条にわたって論じている。

 「風之巻」では、二天一流と他の諸流との技法と心法上の相違を9条にわたって論じている。

 全巻、武蔵自身の、強烈な体験に裏打ちされた言葉で書かれている。そのいくつかを紹介しよう。

我に師匠なし

 自分は若い時から兵法の道に心がけて、13歳の時に初めて勝負をした。その時、新当流の有馬喜兵衛という兵法者に打ち勝った。16歳の時に但馬国の秋山という手強い武芸者に打ち勝った。……諸国の至る所をまわり、諸流の武芸者と行き会い、六十余度にわたって勝負をしたが、一度も勝利を失ったことはなかった。……

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