2014年7月号掲載
なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか
著者紹介
概要
責任回避、先送り、前例踏襲。言われたことだけやり、余計なことは言わない。官僚組織などに見られるこうした事象は、従来の状態を正しいと思い込む心理状態「マインドセット」に起因する。通常、当人はそれが問題だと思わないから厄介だ。マッキンゼー出身で、郵政改革などに関わった著者が、組織を蝕むこのマインドセットについて明らかにし、脱却法を示す。
要約
「異論を唱える義務」とは
「私は聞いていなかった」「知る立場にはなかった」「社内の情報伝達に問題があった」
いずれも組織に問題が生じた時に、その経営陣がお詫びとともに口にする常套句である。
私が以前いたマッキンゼーでは、「聞いていない」ということは、他の人々が、「その人には情報を伝える意味がない、その価値がない人である」と判断した証左であって、その一言を言ったとたんに「無能」の烙印を押される。
しかし、実際の企業、官僚組織では「上の人には知らせない方がよい」といった、慮りともいえる判断を下の者が行い、責任ある人が「聞いていなかった」という言い訳のできる環境をあえて造りだすことは当たり前になっている。
「マインドセット」という問題
私は、郵政民営化の準備企画会社「日本郵政株式会社」、およびその後、設立された「日本郵便株式会社」において、民間企業経営体制への転換に向けた企業変革活動に携わる機会を得た。
コスト問題、関連法人のガバナンス問題、200社以上の不透明なファミリー企業問題…。上場にあたって障害となる経営課題の解決を図ろうとすると、そこには常に強い抵抗が待っていた。
抵抗の源泉は何なのか。ファミリー企業問題などで登場する特定の団体、組織には、既得権益、利権を死守する、というわかりやすい動機がある。
だが、官僚機構出身の責任ある立場の人たちの姿勢は、こうした既得権益保持とは違う、独特の根深い思考様式に起因しているように感じられた。
組織全体として外部の関与を阻み、前例踏襲を当然のこととし、強烈な現状維持と既存組織の拡大を図る。そして、それを改革しようとする人に対しては面従腹背、不作為・先送りという手段で対抗する姿は、つかみどころのない、不気味な「巨大生物」のように感じられた。
この巨大生物、現状を変えようとするあらゆる場面に登場する。組織改革を行っても、そのDNAは新しい組織に移転されていく。このことは、それが根深い個々人の「マインドセット」に起因していることを示唆している。
ここでいうマインドセットとは、「思い込み、先入観、あるいはそれまでの経験や教育などによって醸成された思考様式、特にそれまでの状態を正しいと思い込む心理状態」といった意味である。