2014年10月号掲載
ブラックウォーター 世界最強の傭兵企業
Original Title :BLACKWATER:The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Firm
著者紹介
概要
イラク戦争における民間人の虐殺。アルカイダ幹部の暗殺。シリア反体制派への軍事指導…。米国の軍隊にもできない「汚い仕事」を請け負う民間傭兵会社、「ブラックウォーター」。この“影の軍隊”に、調査報道ジャーナリストが迫った。会社が誕生した背景、創業者と米政財界との癒着など、知られざる実態が暴かれる。原著は、『NYタイムズ』の年間ベストセラー。
要約
バグダッド「血の日曜日」
2007年10月2日。ワシントンDC。
この日、少年のような顔立ちをした38歳のブラックウォーター社の経営者エリック・プリンスは、ある事件の重要証人として連邦議会に呼び出された。それは、「バグダッドの血の日曜日」とも呼ばれた虐殺事件である ―― 。
07年9月16日、イラク、バグダッドのニスール広場。重武装した民間傭兵会社ブラックウォーターの車列が、渋滞した交差点に差しかかった。
占領下のイラクでは、重武装した傭兵に守られた米国の要人の車列は、猛スピードで通り抜ける。
しかし、その日、交通整理をしていたイラク人警察官によれば、広場に入ると、車列は突然Uターンし急停車した。そして、白人が車両の上から「手当たり次第に」銃を乱射し始めたという。
これに対し、ブラックウォーターの警備員は、発砲したのは速度違反の車が止まらなかったからだと述べる。だが、大勢の目撃者がこの主張に反論している。さらに、目撃者によると、ヘリコプターからも発砲があったという。
この事件によるイラク人の死亡者は17人、負傷者は20人以上。数時間のうちに虐殺のニュースは広まり、同社の名前は世界中に知れ渡った。
傭兵は特別扱い?
イラクに展開する傭兵の数は、数万人規模に及ぶ。にもかかわらず、イラク占領当初の5年間で、民間傭兵部隊が人々を殺したことで法的な処罰を受けたことはなかった。
数多くの米軍兵士がイラクでの殺人関係の罪で軍法会議にかけられてきたが、ブラックウォーターの傭兵の中で、罪に問われた者は1人もいない。
結局のところ、ブラックウォーターは法的なグレーゾーンで活動していて、米国の民法と軍法の適用範囲外にあり、イラク法に基づく起訴からも免責を与えられているようだ。
2007年末に連邦大陪審が調査のために招集されたが、ブラックウォーターを起訴する可能性をめぐっては重大な問題が数多くあった。