2015年6月号掲載
原油暴落で変わる世界
著者紹介
概要
2014年半ばから続く、原油価格の急落。日本では、ガソリン代が安くなるなどの理由で、これを歓迎する声もある。だが、今回の原油安は、マイナスの面も。金融危機の他、領有権争い等、政治情勢の面でも深刻な問題が生じかねない。本書では、エネルギー事情に詳しい著者が、地政学の観点から、原油価格暴落の背景、中長期的な世界情勢への影響などを考察する。
要約
なぜ、原油価格は暴落したのか
原油価格の急落で、世界が揺れている ―― 。
2011年から1バレル当たり100ドル前後で推移していた原油価格が、2014年6月以降軟調となると、その後の半年で約50%急落した。
今回の原油価格急落の発端は、2014年6月、ISIL(イスラム国)の樹立宣言に動揺した原油市場を鎮静化させるために、サウジアラビアが日量15万バレルの増産を行ったことにある。
この動きに追随してイラクとリビアが増産に走ったことから、原油価格は6月から9月にかけて105ドルから93ドルに下落した。
その後、サウジアラビアの石油鉱物資源相がクリスマス前に「1バレル=20ドルまで減産は行わない」と発言したため、原油価格は2015年に入ると一時50ドル割れとなった。
1バレル=20ドルも。原油低価格時代の到来
今回の原油価格急落を受けて、今後10年間の原油価格は1バレル=20~50ドルの間で推移するとの見方が出ている。
米国のシェールオイル生産が活況を呈し、OPEC(石油輸出国機構)からシェアを奪いつつある。この「シェール革命」により、「市場で再び価格競争が起きる」との認識ができつつあるのだ。
では、20ドルの下限と50ドルの上限の根拠は何か。
まず20ドルという下限であるが、シェールオイル投資の限界費用(ある生産量からさらに1単位多く生産するのに必要な費用)とされる1バレル=20ドルに原油価格が近づけば、シェール企業が生産を取りやめるため、20ドルが世界の原油価格の下限を形成する、との見方である。
次に50ドルの上限だが、原油価格がシェール企業のトータルの生産コストの下限とされる50ドルを上回れば、シェール企業の生産が活発化し、価格が再び50ドル以下になるという見方である。
このことからわかるのは、シェール企業がサウジアラビアにとって代わり、国際市場における調整役になりつつあるということである。