2023年5月号掲載
半導体戦争 ――世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防
Original Title :CHIP WAR (2022年刊)
著者紹介
概要
パソコンやスマホ、自動車など身近な製品からロケットまで。「半導体」の用途は広がる一方だが、生産できる企業は一握り。製造工程は複雑、コストは膨大で、今や石油をしのぐ「戦略的資源」ともいわれる。そんな世界最重要テクノロジーについて、いびつな業界構造、グローバル化、米中対立の新側面など、全体像を解き明かす。
要約
原油を超える世界最重要資源
2020年、中国指導部を悩ませているものがあった。それは、米国の技術の国外移転を制限する規制だ。米政府が、軍事システムと消費者向け商品の両方で広く使われるコンピュータ・チップ(半導体または集積回路)の輸出規制を、劇的に強化しようとしていたのだ。
規制の標的にされたのが、スマートフォンや通信機器など、先進技術を販売する中国のテクノロジー大手、ファーウェイ(華為技術)である。
米国が危惧したのが、ファーウェイ製品の価格だった。米国は、中国政府の補助金のおかげで安価で販売されていたファーウェイ製品が近い将来、次世代通信ネットワークの屋台骨を担うようになるのではないか、と恐れていた。
その脅威に対抗するため、米国の技術でつくられた先進的なコンピュータ・チップを、ファーウェイが購入できなくなるよう規制をかけたのだ。その結果、同社の世界的な拡大は止まった。
先進技術に不可欠な半導体
米中両政府は今や、機械学習からミサイル・システム、自動運転車、武装無人機にいたるまで、先進技術には最先端のチップが不可欠であることを認識している。ところが、その製造を支配しているのは、実はごく少数の企業なのだ。
スマートフォン、例えばiPhoneが機能するには、数十個の半導体が必要で、各チップが、バッテリー、Wi-Fi、オーディオ、カメラなど別々の機能を担っている。だが、アップルはこうしたチップをいっさい製造していない。同社はiPhoneのOSを動作させる超複雑なプロセッサを社内で設計してはいるが、その製造は不可能なのだ。
現在、アップルの最先端のプロセッサ、つまり世界最先端といえる半導体は、たった1つの企業の、たった1つの建物でしかつくれない。その企業とは、台湾積体電路製造(TSMC)である。
シリコンバレーの発展
半導体がこれほど社会に広がったのは、様々な企業が半導体を数百万個単位で製造する新たな手法を発見したからであり、挑戦的な経営者たちがひたすらコストを下げ続けたからでもある。
科学的知識、製造のノウハウ、先見的なビジネス思考を組み合わせ、この革命の中心地となったのが、カリフォルニア州のシリコンバレーだ。
そして、いったん半導体産業が形成されると、それをシリコンバレーから切り離すのは事実上不可能になった。今日の半導体のサプライ・チェーンには、多くの都市や国々の部品が必要不可欠だが、いまだにシリコンバレーとのつながりや、カリフォルニアで設計・製造された装置がなければ、チップを製造するのはほぼ不可能といっていい。
シリコンバレーと各国との関係性
そこで、シリコンバレーと互角に渡り合うのではなく、シリコンバレーのサプライ・チェーンと深く一体化することで成功した国々もある。