2016年2月号掲載
イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】
Original Title :INNOVATION AND ENTREPRENEURSHIP, Abridged and Essential Edition
著者紹介
概要
成功したイノベーションのほとんどが平凡である。単に変化を利用したものにすぎない ―― 。ドラッカーはこう語り、『イノベーションと企業家精神』(1985年刊)で、イノベーションは誰もができることを世界で初めて明らかにした。そのエッセンシャル版である。世界中で読み継がれる名著のポイントを、わかりやすく伝える。
要約
イノベーションと企業家精神
1800年頃、フランスの経済学者J・B・セイは、「企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す」といった。
この「企業家(entrepreneur)」とは、何を意味するのか?
企業家および企業家精神の定義
企業家精神とは、すでに行っていることをより上手に行うことよりも、全く新しいことを行うことに価値を見いだすことである。これこそまさに、セイの「企業家」なる言葉の本質だ。
すなわち、企業家とは、秩序を破壊し解体する者であり、その責務は「創造的破壊」である。
企業家は、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用する。これが、企業家および企業家精神の定義である。
イノベーションとは何か
企業家はイノベーションを行う。それは、富を創造する能力を資源に与える。
人が利用の方法を見つけ、経済的な価値を与えない限り、何ものも資源とはなり得ない。地表にしみ出る原油やアルミの原料であるボーキサイトが資源となったのは、1世紀少々前のことである。それまでは単なる厄介物にすぎなかった。
社会や経済の領域でも同じことが起こる。経済においては購買力に勝る資源はない。購買力もまた、企業家のイノベーションによって創造される。
19世紀初め、米国の農民には購買力がなかった。そのため収穫機を買えなかった。その時、収穫機の発明者の1人が「割賦販売」を考えつく。これによって農民は、過去の蓄えからではなく未来の稼ぎから収穫機を買えるようになった。農機具購入のための購買力という資源が生まれたのだ。
変化こそがイノベーションの機会となる
企業家として成功する者は、その目的が金であれ、名声であれ、価値を創造し、社会に貢献する。しかも、その目指すものは大きい。すでに存在するものの修正では満足しない。価値と満足を創造し、単なる素材を資源に変える。あるいは、新しいビジョンのもとに既存の資源を組み合わせる。
この新しいものを生み出す機会となるものが、「変化」である。イノベーションとは、意識的かつ組織的に変化を探すことである。