2016年4月号掲載
日本人が知らない国際情勢の真実
著者紹介
概要
グローバル化するイスラム過激派のテロ、ロシアによるシリアへの軍事介入、中国が強行する南シナ海での大規模な埋め立て工事…。近年、大きく変動し始めた国際情勢。これを、どう読み解くか。報じられるニュースが、今後、世界の行方を左右する重大事象に発展するか否かを見分ける手法 ―― 歴史の大局観の磨き方を語る。
要約
「歴史の大局観」をいかに磨くか
後世の歴史家は、2014~15年を「数十年に一度」の歴史的転換期と記すかもしれない。
2014年3月、ロシアによるクリミア侵攻・併合により、冷戦後の欧州でパラダイムシフトが始まった。同年6月末、中東ではIS(イスラム国)がイラクのモスルを陥落させた。
こうした傾向は2015年に入り一層顕著になる。1月にはパリでシャルリー・エブド襲撃事件、シリアでISの日本人人質殺害事件が起きた。5月には南シナ海の南沙諸島で中国による大規模な埋め立て活動が明らかになり、10月には米艦船が人工島の沖12カイリ内を航行。また、9月にはロシアがシリアで本格的な軍事行動を開始した。
これらの事件発生は偶然ではない。冷戦終了後四半世紀、それまで惰性によって安定していたかに見えた国際情勢が大きく変動し始めたのだ。
こうした国際情勢の下で、日本は何をすべきか。
国際情勢を左右する要因
残念ながら、今の日本には、国家の「大戦略」が欠けている。大戦略とは、20世紀英国の戦略思考家リデル・ハートが提唱した概念である。
一般には、「国家目的を遂行する最高指導レベルの観点から、平戦両時に政治的・軍事的・経済的・心理的な国力を効果的に運用する統一的・総合的・全般的な戦略」と考えてよい。
国家の大戦略を立案するには、20~30年後の世界の国際政治・軍事戦略環境について冷徹な見通し・シナリオを持つ必要がある。
これを考える上で最も重要なのが、「歴史の大局観」だ。歴史の大きな流れを掴んでいれば、大戦略の立案は容易になる。
一部の戦略思考家は、将来の国際情勢を左右するような大きな要因を「メジャードライバー」と呼んで重視する。これは多くない。我々が重大ニュースと考えるものの多くは単なる「ドライバー」 ―― メジャードライバーの結果として起きる国際情勢に一定の影響を与える要素に過ぎない。
また、世の中にはドライバー以下の、細々とした事象が多数ある。その多くは、将来の国際情勢を左右する力をあまり持たない事実・要因だ。筆者は、これらを「エピソード」と呼ぶ。