2016年7月号掲載
トランプが日米関係を壊す
著者紹介
概要
米国の不動産王、ドナルド・トランプ。政治経験はないが、強烈な個性と攻撃的な演説を武器に、2016年、共和党の大統領候補のトップに躍り出た。2000年の大統領選挙では泡沫候補だった彼が、今回、圧倒的支持を得ている。なぜか。“トランプ旋風”の背景、日本に及ぶ危険などを、米国の政治事情に詳しい日高義樹氏が読み解く。
要約
なぜ今、トランプか
アメリカ政治の中心になってきた共和党主流の保守勢力と、突如、大統領選挙戦に侵略してきた、いわば異星人の不動産王ドナルド・トランプ。
両者が一大衝突を起こしたため、アメリカが建国以来の大混乱に陥っている ―― 。
トランプ人気の背景にあるもの
2016年のアメリカ大統領選挙は、米国民の怒りの爆発そのものである。特にその怒りは、既成政治家たちに向けられている。共和党の大統領候補ドナルド・トランプの人気が異常な高まりをみせているのは、その証拠である。
トランプは派手なジェスチャーと攻撃的な演説で、人々とマスコミの関心を集め続けているが、彼の人気の原因を探ってみると、米国民の政治に対する不満が明確に浮かび上がってくる。
例えばトランプは、メキシコから入り込んでくる不法移民がアメリカ人の仕事を奪っているとして、1人残らず追放すべきだと主張している。さらに、今後、不法入国するメキシコ人を阻止するために、メキシコ政府の費用で、メキシコとの国境に高い塀を作るべきだと主張している。
この発言は国際的な常識から大きく外れている。
アメリカの政治家は、米国人労働者のことを考えれば反対したいが、移民の国であるアメリカが、やってくる人々を拒絶できないという建前から、彼のような発言を控えてきた。
トランプに人気があるのは、普通の政治家が発言できなかったことを明確に主張しているからだ。
米国民が現状に腹を立て政治的改革を望んでいるのは、賃金が上がらず、生活が良くならないこともさることながら、既成政治家が現状を変えるための明確な対策を打ち出していないからだ。
トランプは、オバマ大統領の不明確な中東政策に対しても厳しい姿勢をとっている。テレビ番組で、シリアで勢力を拡大するイスラム国(IS)について聞かれた時にはこう述べた。
「アメリカ空軍の卓抜した攻撃力からすれば、IS勢力を徹底的につぶして、シリアを石器時代に戻してしまうことも可能だ」