2016年8月号掲載
ジョン・P・コッター 実行する組織 大組織がベンチャーのスピードで動く
Original Title :ACCELERATE
著者紹介
概要
副題は「大組織がベンチャーのスピードで動く」。これを可能にするのが、本書が紹介する「デュアル・システム」だ。すなわち、現在のピラミッド型組織を保ったまま、新たなフラット型組織を導入する。「あれか・これか」ではなく「あれも・これも」。従来のシステムを活かしつつスピーディーに動くための原則、方法を説く。
要約
組織にとって最も根本的な問題
企業経営者は、混迷を深める現代の世界でいかにして成長を遂げ、利益を拡大するか、という困難な課題に直面している。
どんな組織も、起業した当時は、戦略を実行する俊敏性や機動性を備えていたはずだ。そして、スピードと自信を持ってチャンスをつかみ、リスクを回避した。だがスタートアップの段階を過ぎると、効率化や最適化に軸足を移す ―― これが組織にとって最も根本的な問題と言えよう。
そうした企業の例はいくらでも挙げられる。全米2位の書店チェーンだったボーダーズ・グループや、携帯端末ブラックベリーで知られたリサーチ・イン・モーションは、その最たるものだ。
重大な局面を迎えた時、彼らは戦略的決断を下さなければならないとわかってはいた。だが、後手を踏んだ挙げ句、結局はスピードに勝る競争相手に打ち負かされた。
スピード競争に負ける企業がたどる道筋は、いつも同じだ。ある日突然、重大な脅威、あるいはチャンスに遭遇する。そして、かつてうまくいった組織や手法で難局を切り抜けようとしたり、チャンスをつかもうとしたりして、失敗するのだ。
ネットワーク組織から階層組織へ
企業がたどるライフサイクルは、よく似ている。始めはネットワーク状の組織で、太陽系のように中心に太陽があり、その周囲に惑星がある。言うまでもなく、太陽は創業者だ。創業当時の仲間は惑星として様々な仕事を進めていく。
だが、一定の成功を収めると、「本物」の企業へと脱皮を遂げる。つまり、階層的に構築され、計画立案、業務管理、人事といったマネジメント・プロセスで運営される組織だ。
こうした組織を官僚的な過去の遺物だとバカにする人がいる。今どき古すぎる、中間管理層などいらない、フラットな組織にすべきだ、云々。
だが、ちょっと待ってほしい。経営陣を頂点とする指揮統制型の階層組織は、20世紀が生んだイノベーションの1つであり、企業がうまく機能するためには欠かせない構造である。
階層組織は、タスクフォース、専門家チーム、プロジェクト・マネジメント部門を導入したりして、変革や新しい試みを成功させることが多い。この方式は階層組織とマネジメント・プロセスの組み合わせになじみがよく、新しいことに取り組むのと並行して、日々の業務を着実にこなせる。
だから企業経営者はこのやり方を採用し、維持してきたのである。