2016年9月号掲載
失敗の研究 巨大組織が崩れるとき
著者紹介
概要
鶏肉偽装事件を起こしたマクドナルド、免震ゴムの性能データ偽装が発覚した東洋ゴム工業…。ここ数年、大企業の不祥事が続くが、これは決して偶然ではない。背景には「大企業時代」の終焉がある。そう指摘するベテラン経済記者が、「巨体が故の病」を分析。様々な失敗事例から、巨大組織が陥る「6つの病」をあぶり出す。
要約
「大企業時代」の終焉
東洋ゴム工業の免震ゴムの性能データ偽装事件、代々木ゼミナールの20校一斉閉鎖、解任劇やクーデターに揺れるロッテ…。
我々記者には、日々、巨大組織の不正や事件が耳に入ってくる。だが、そこに驚きはない。「またか」という諦めの空気とでも言おうか。また、取材をしていると、同じ空気が社員や消費者などからも感じ取れる。それは、大企業で大きな地殻変動が起きていることに、多くの人々が薄々気づいていることの表れだと感じられてならない。
結論から言うと、「大企業時代」が終わったのではないか。
20世紀は、欧米や日本の企業が巨大な組織体へと成長した時代だった。その中心となったのは石油と自動車だ。1903年に米フォードが創業。石油大手が中東をはじめとした世界の石油を抑え、モータリゼーションの基盤を支えた。
こうして石油と自動車が世界経済を牽引する「大企業時代」が到来する。戦後の日本も、電機や自動車といった産業が輸出によって競争力を高め、その過程で日本企業は巨大化していく。
だが、このシステムは永遠に続くものではなかった。世紀末に近づく頃、収奪の大地を失う。13億人の巨大市場・中国が生産基地に変わり、インドや中南米、アフリカも生産地として動きだす。
90年代、超低金利時代に突入したことは、収奪システムの終焉を意味していた。投資しても、そのリターンを得られるような「実体経済」が見つからない。先進国経済が次々と超低金利、低成長という状況に陥った。そして、マイナス金利の時代が到来する。これは、投資が収益を生まないどころか、損失を被ることを意味する。
それでも多くの巨大企業は、20世紀の幻想から抜けきれない。経営トップは、収益拡大を株主から強く求められる。無理な利益拡大を割り振られた現場は、人員やコストの削減が吹き荒れる。そうして疲弊した現場は、事件や事故が起きやすくなり、不正に手を染めることすら厭わなくなる。
失敗の6つの要因
巨大組織による事件が頻発する理由を、景気低迷に求める向きもある。だが、それではバブル崩壊から四半世紀以上経った今、堰を切ったように不祥事が出てくる状況の十分な説明にはならない。
なぜ巨大組織の不祥事が続発するのか。この謎を解くには、巨大組織の内部がどのように質的変化を起こしているかを見る必要がある。