2023年4月号掲載
日の丸コンテナ会社ONEはなぜ成功したのか?
著者紹介
概要
2年連続で利益2兆円。高業績を誇るコンテナ海運会社、Ocean Network Express(ONE)。大手海運3社の赤字部門の分離・統合で生まれた同社が、なぜ躍進できたのか。日本から離れた「出島」に本社を置く、若手・中堅が存分に腕を振るえる環境がある…。その成功要因は、事業の再構築を模索する企業にとって示唆に富むものだ。
要約
邦船3社が赤字お荷物事業を統合
シンガポールを本拠地とするコンテナ海運会社、Ocean Network Express(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス、通称ONE)。2017年7月、川崎汽船、商船三井、日本郵船という日本の大手海運3社が設立した、発足して5年余の新しい会社である。
3社のコンテナ事業を統合
ONEの親会社となった海運3社は、いずれも100年を超える歴史を持つ日本の大企業である。彼らは世界で五指に入る運航規模を誇り、船の種類もタンカーや自動車専用船など幅広い。
現在はONEに集約されたコンテナ輸送も、かつて3社の事業部門として互いに鎬を削っていた。ところが、コンテナ船事業は長きにわたって収益性の高い事業ではなかった。世界景気の変動の影響をもろに受ける市況業種で、近年も2008年のリーマン・ショックによる不況の影響を受けて業績が低迷していた。
赤字脱却のための悪戦苦闘は長く続き、コンテナ船部門の事業拠点を日本から海外に移すなどの試みも行われてきた。コンテナ船の本部機能を日本郵船と川崎汽船がシンガポールに、商船三井は香港に移管するなど、3社とも早くから海外を中心とした事業運営に切り換えていた。
最終的に3社はそれぞれのコンテナ船部門を本体から切り離し、合弁で新会社を発足させる決断を下す。それで誕生したのがONEだった。
世界の有名企業と比べても遜色のない業績
ONEは現在、約200隻のコンテナ船を運航し、170万本のコンテナを使って世界規模で輸送サービスを展開している。120カ国との間で130の定期航路を提供するネットワークを張り巡らせ、顧客数は2万社を超える。
規模の大きさもさることながら、特筆すべきは世界の名だたる有名企業と比べても遜色のない業績だ。ONEの2021年度の税引き後利益は167億5600万ドル(当時の為替換算で約2兆1800億円)。2021年度の日本企業で最終利益のトップはトヨタ自動車の2兆8501億円、2位はNTTで1兆1810億円だから、単純に比較すると、ONEは日本企業第2位の利益をあげたことになる。
「日の丸事業統合会社」でうまくいった例はない
不振事業を本体から分離し、企業の枠を超えて事業統合する事例は、半導体など他産業でも見られる。だが、政府の後押しを受けて誕生した「日の丸事業統合会社」でうまくいった例はない。
半導体では、NEC、日立、三菱電機のメモリー部門を統合したエルピーダメモリが2012年に経営破綻して、米半導体大手のマイクロンテクノロジーに売却された。液晶パネルでは、政府系投資会社の産業革新機構主導で、東芝、日立、ソニーの中小型液晶パネル事業を統合して2013年にジャパンディスプレイが設立されたが、事業環境の悪化などもあって2022年、資本金を1億円に減資している。
危機打開のために集まった「日の丸事業統合会社」は、いずれも経営環境の変化についていけず、ジリ貧に拍車をかけた。だから、複数企業が赤字事業を統合することは、最後の手段と見られても当然だった。
ONE快進撃の秘密
では、ONEはなぜ短期間で好業績を上げたのか。