2016年12月号掲載
「できる人」が会社を滅ぼす
著者紹介
概要
著者は組織風土改革の第一人者。決断が速い、大量の仕事をこなす、調整力がある。こんな「できる人」の大半は、「仕事をさばくのがうまいだけ」だと言う。それなりの成果は出すが、仕事のやり方には、組織を滅ぼしかねない深刻な問題が潜む。本書では、一見優秀な社員が陥るワナ、そして「真のできる人」になる方策を示す。
要約
「仕事をさばく」というワナと脱却法
日本の会社では、ほとんどの人が一生懸命に働き、与えられた責任を果たそうと努力している。多くの会社が、かつて、こうした「優秀な社員=できる人」に支えられていたのは間違いない。
しかし、これだけ頑張っているのに、今日、日本の会社の生産性は主要各国のそれより低い。アップルやグーグルのようにイノベーションを次々に生み出す企業も、あまり誕生していない。
そして、日本企業の何よりの強みだった「信頼」というブランドも揺らぎ始めている。三菱自動車や東芝といった日本を代表する会社で、深刻なコンプライアンス問題が続発している。
1人1人の社員の努力にもかかわらず、日本の会社はある面では弱体化している。なぜか。
「できる人」の大半は「さばくのがうまい人」
これまで日本の会社では、次のような人が「優秀な社員」として高く評価されてきた。
- ・毎日遅くまで残業し、大量の仕事をこなす
- ・決断が速く、自分が決めた方向へと部下をぐいぐい引っ張っていける
- ・不具合や様々な問題が起こっても、とりあえず事を丸く収める調整能力がある
しかし実は、こうした「できる人」が今、会社をジワジワと滅ぼしているのである。このタイプの人は、自分でも気づかぬうちに「ワナ」に陥っている。それは、「できる人」と評価される社員の多くが、単に「仕事をさばくのがうまい人」であるということだ。すなわち、大量の仕事に忙殺されるあまり、目の前の課題に対して、それがどんな意味を持つ課題なのかをさておいて、「どうやるか」だけを考えるようになっている。
「『どうやるか』を考えて、何が悪いんだ?」
普通に考えれば、多くの人はそう思うはずだ。確かにどうやるかを考えないと仕事は前に進まない。しかし、そこに大きな落とし穴がある。
「さばく社員」ばかりになると、会社はどうなるか
社員が「仕事をさばく人」ばかりになると、会社はどうなってしまうのか。
最大の弊害は、「考える力」の衰退である。
「どうやるか」を考えてさえいれば、とりあえず目の前の仕事は処理されるので、当面は会社も回っていく。しかし、変化の激しい今の時代に、現在のビジネスモデルがいつまでも安泰ということはあり得ない。液晶事業で大成功を収めたシャープがわずか十数年で韓国や台湾の企業に追い落とされたように、過去にどれほど輝かしい業績を上げたビジネスも永遠に存続することはない。