2017年2月号掲載
シリア難民 人類に突きつけられた21世紀最悪の難問
Original Title : THE NEW ODYSSEY
- 著者
- 出版社
- 発行日2016年11月25日
- 定価2,200円
- ページ数342ページ
※『TOPPOINT』にお申し込みいただき「月刊誌会員」にご登録いただくと、ご利用いただけます。
※最新号以前に掲載の要約をご覧いただくには、別途「月刊誌プラス会員」のお申し込みが必要です。
著者紹介
概要
家族の未来を守るための手立てが、「国を捨てて難民となること」しかないとすれば ―― 。英国人ジャーナリストが、ある1人のシリア人の苦難の旅を軸に、「戦後最悪の人道危機」といわれるヨーロッパ難民危機をレポート。密航ビジネス、EUへの影響など、泥沼化する難民危機の“最前線”で起きている真実を伝え、解決策を示す。
要約
ハーシムの「旅」の始まり
2010年末から2011年初めにかけて、アラブ世界では独裁体制に反対するデモが相次ぎ、チュニジア、エジプト、リビアなどで、体制が崩壊するか、崩壊寸前に追い込まれた。
その波 ―― 「アラブの春」は、2011年2月、シリアにも到達した。ダマスカスの市場で行われた抗議デモが最初だったが、人々を大きく動かしたのは、3月半ばの小さな事件だった。
シリア南部の町ダルアで、複数の少年が学校の壁に民主化を求める落書きをした。バシャル・アサド大統領は父の後を継いで大統領に就任し、父が確立した独裁体制を維持してきた。そんな政治環境で、現体制への批判は絶対に許されない。少年たちは逮捕され、拷問を受けた。
この事件をきっかけにデモが拡大し、アサド大統領はそれを武力で弾圧したため、多くの死者が出た。こうしてシリアの反体制デモは拡大し、騒乱は内戦へと発展していく。
さらに、アラウィー派(イスラム教シーア派の一派)のアサドを支援するレバノンのシーア派武装組織ヒズボラがシリアに介入してくると、内戦は宗派抗争の様相が強くなっていった。
そんな中、ハーシム・スーキは突然、アサド政権の情報機関によって自宅から連行された。
ハーシムは37歳の公務員で、とりたてて政治に関心はなかった。勤務先は地元の水道局だ。「アサド大統領がアラウィー派で、自分はスンニ派だからだろうか」と、ハーシムは思った。
彼は半年もの間、監禁・拷問され、また内戦による空爆で自宅を破壊され、仕事も失った。もうこれ以上、シリアには住み続けられない ―― 。
子供や妻の未来のために祖国を捨てる決意をしたハーシムは、まずはエジプトへ、そして難民に寛容なスウェーデンを目指し、地中海を密航船で渡り、強制送還に怯えながらヨーロッパを北へと逃れていく。
*
本書は、この苦難の旅路をたどり、シリア難民、そして「戦後最悪の人道危機」ともいわれるヨーロッパ難民危機の真実を伝えるものである。