2017年3月号掲載
大事なことに集中する 気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法
Original Title :DEEP WORK:Rules for Focused Success in a Distracted World
著者紹介
概要
今日、多くのメールやSNSに気を散らされて、1つのことにじっくり取り組むのが難しい。そうした中、本当にやりたいことに集中できる環境を作り、それに没頭する方策を、気鋭のコンピュータ科学者が伝授。「ディープ・ワーク」と著者が呼ぶ、「成果を最大にする働き方」の大切さと実践法が、様々な実例とともに説かれる。
要約
偉大な仕事をした人が知っていたこと
スイスのチューリヒ湖北岸近くにボリンゲンという村がある。1922年、精神分析医カール・ユングは、この地に隠れ家を建てた。
資料によれば、ここでユングは午前7時に起床、朝食後、2時間、執筆に没頭した。午後は瞑想するか周辺を散策。午後10時には床についた。
この隠れ家は別荘、仕事からの避難場所ではない。当時、ユングに休暇を取る余裕はなかった。1年前、彼はジークムント・フロイトとの見解の相違を述べた『タイプ論』を発表した。当時、フロイトに異を唱えるのは勇気のいることだった。ユングは自著を補強するため、頭脳を研ぎ澄まし、論文や著書を次々に生み出す必要があった。
彼がボリンゲンに引っ込んだのは仕事から逃れるためではなく、仕事の質をより向上させるためだった。
ユングの偉業は「ディープ・ワーク」によるもの
ユングは20世紀で最も影響力のある思想家の1人になった。彼の偉業に重要な役割を果たしたのは、「ディープ・ワーク」だ。この言葉は私が名付けたもので、次のようなことを意味する。
「あなたの認識能力を限界まで高める、注意散漫のない集中した状態でなされる職業上の活動。こうした努力は、新たな価値を生み、スキルを向上させ、容易に真似ることができない」
実際、歴史上、影響力のあった人物は、ディープ・ワークにこだわりを持っていた。
例えば、マーク・トウェインはニューヨーク州クアリー・ファームにある小屋で『トム・ソーヤの冒険』の大部分を書いた。
最近では、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツが年に2度、「考える週(Think Weeks)」を設け、その間は湖畔のコテッジに引きこもり、本を読んだり大きな構想を練ったりしている。
「シャロー・ワーク」に足をとられる私たち
影響力のある人々がディープ・ワークに努めているという事実は重要である。現代の知的労働者の大半の行動と好対照をなすからだ。彼らは物事を深く極めることの価値を急速に忘れつつある。
知的労働者がディープ・ワークに努めない理由は、はっきりしている。ネットワーク・ツールのためだ。メールのようなコミュニケーション・サービス、ツイッターやフェイスブックのようなソーシャル・メディア・ネットワーク。簡単にアクセスできるこうしたツールの台頭が、大半の知的労働者の関心を分散させた。