2017年4月号掲載
ダーク・マネー 巧妙に洗脳される米国民
Original Title :DARK MONEY
著者紹介
概要
副題「巧妙に洗脳される米国民」。自分たちに都合のよい政治を実現するため、カネでシンクタンクや大学、政治家を操る。「ティーパーティ運動」など、一見、草の根運動に見える活動に資金を出し、主導する ―― 。豊富な資金で政治を動かす米国の億万長者の正体を、『ニューヨーカー』誌のベテラン記者が徹底取材により暴いた大著。
要約
コーク・サミット
2009年1月20日、ワシントンDC。初のアフリカ系アメリカ人大統領の就任式を見ようと、100万人以上の人々が祝典に集い、拍手喝采した。
一方、同月の最後の週末、同じ国の反対側では、大統領選挙の結果を帳消しにしようとする活動家らによる、別の集まりが開かれた。場所はカリフォルニア州パームスプリングズの郊外にあるルネッサンス・エスメラルダ・リゾート&スパ。
リゾートに集まったのは、ビリオネア(資産10億ドル以上)のビジネスマン、名門一族の富の継承者、保守派の議員や首長などである。
その集団は、チャールズ・コークという一市民によって呼び集められた。彼は、カンザス州に本社を置くコングロマリットのコーク・インダストリーズを率いている。同社は、創立者だったチャールズの父の没後、彼と弟デイヴィッドが経営に携わってから、飛躍的に成長した。
同社はパイプライン4000マイル(6436㎞)、アラスカ、テキサス、ミネソタの製油所、製材・製紙会社、鉱物資源、化学メーカーを所有。兄弟は世界第6位、第7位の大富豪で、いずれも2009年の資産総額は推定140億ドルだった。
コーク兄弟の野望
コーク兄弟は、膨大な富によって絶大な影響力を備えている。政治的に同じような考え方の、やはり計り知れない富を所有する仲間とともに、富を武器に、最近まで政治の辺縁の存在だった超保守的なリバタリアン(個人的・経済的な自由の双方を主張する者)の政治活動を推進してきた。
自分たちの考えを辺縁から政界の中心へ押し出すため、シンクタンク、学術プログラム、多種多様な支持団体のネットワークに補助金を投入し、自分たちの意見を全国的な政治論議に割り込ませた。ロビイストを雇って、議会で自分たちの権益を推し進め、政治運動員を雇って、まやかしの「草の根運動集団」を創りあげた。
彼らが唱えたのは、個人と企業の税を大幅に下げ、貧窮者向けの社会サービスを最低限のものにし、産業の監督、ことに環境面での規制を緩めるというものだ。どの意見も、彼らの個人的な金銭的利害にぴったり合致していた。
超富裕層「0.1%」の挫折
リゾートに集まったのは、コーク兄弟と同様、莫大な富を所有する人々で、アメリカでも選り抜きの0.1%か、それ以上の超富裕層だった。
この“コーク・ネットワーク”で大きな存在感を示すのが、エネルギー関連企業だ。コーク兄弟の会社も含め、12社以上の石油・天然ガス会社が参加している。彼らは政府の気候変動対策から逃れ、環境保護規制を緩和することを狙っていた。
この集団にとって、バラク・オバマの大統領当選は極めて腹立たしい挫折だった。この階層の多くは、共和党が政権を握っていたジョージ・W・ブッシュ時代に、自分たちの利益になるような政策をつくることで莫大な富を蓄積した。だが2008年の選挙で、共和党は惨敗。民主党に大統領の座を奪われただけではなく、議会の上下院でともに少数党に転落した。