2017年7月号掲載

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層

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著者紹介

概要

エマニュエル・トッド。識者の多くが見抜けなかった英国のEU離脱、トランプの米大統領当選などを的中させたフランスの人類学者である。なぜ、その読みは当たるのか。彼の大胆な発言を支える、家族人類学・人口動態学の理論をわかりやすく解説した。さらに、トッドの理論を援用しつつ、世界の国々の歴史と今を読み解く。

要約

トッド理論の基礎にあるもの

 エマニュエル・トッドという名前が、近年、ジャーナリズムをにぎわせている。

 昨年の米大統領選では、大方の識者がヒラリーと予測する中、「トランプ当選」を予見していた。これ以前にも、ソ連の崩壊、リーマン・ショック、イギリスのEU離脱などを予言している。

 その的中をもって“21世紀の予言者”と呼ばれたりするが、彼にすれば、これは迷惑なだけだろう。なぜなら、専門とする家族人類学と人口動態学から割り出した数値にもとづいて、蓋然的な予想を述べているにすぎないからだ。

数字にすべてを語らせよう

 トッドはデータを緻密に分析し、仮説を立てて論証、再検証を重ねる誠実な「家族人類学者」だ。

 学者としての成り立ちを振り返ると、1951年、フランスに生まれた彼は、長じて英ケンブリッジ大学へ留学する。当時、同大学では家族人類学研究の集団「ケンブリッジ・グループ」が画期的な成果をあげていた。

 人類の起源は大家族で、文明の発達につれ核家族になった ―― 同グループはこの見方に疑問を抱き、家族類型を調べる。その結果、12世紀まで溯っても大家族はほとんどなく、核家族が大部分であることがわかった。そこで、核家族が最初の形態で、それが現代まで変わっていないとした。

 だがトッドが調べると、この結論は違っていた。ドイツやロシアなどに、家族が複数結合した「複合家族」や「拡大家族」が過去に存在したのだ。

 そして彼は、共産圏の様々な数字を分析する。その結果、ソ連では文明化の過程に入れば下がるべき乳児死亡率が上昇しているという事実を発見し、ソ連の崩壊を予言した。これが1976年刊の『最後の転落』だ。実際のソ連崩壊は1991年だから、かなりの先見の明である。

人口の急激な増加が起きた理由

 だが、いきなり、こうした分類法にたどり着いたわけではなく、出発点には1つの疑問があった。それは、人類はなぜ「多産多死型社会」から「少産少死型社会」へと移行したのか、というものだ。

 人類は18世紀の半ばまで、多く子供を産み、その子供がたくさん死ぬというパターンを踏襲していた。これは、医療が不完全で栄養状態が悪ければ乳児死亡率が高いので、スペアとしてたくさん子供を産んでおかなければならないからだ。

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