2018年3月号掲載
新装版 左遷の哲学 「嵐の中でも時間はたつ」
著者紹介
概要
著者は、安岡正篤の高弟で、中国古典に造詣の深い伊藤肇氏。“電力の鬼”といわれた松永安左ェ門をはじめ、氏がよく知る財界著名人の挫折体験、そして先哲の教えなどを例に、障害や挫折をいかに上手に耐え、乗り越えればよいか、そのヒントを提供する。1978年の刊行後、今なお読み継がれている超ロングセラーの新装版。
要約
闘病と浪人と投獄と
“電力の鬼”といわれた松永安左ェ門の残した名言がある。
「実業人が実業人として完成するためには、3つの段階を通らぬとダメだ。第1は長い闘病生活、第2は長い浪人生活、第3は長い投獄生活である。(中略)少なくとも、このうちの1つくらいは通らないと実業人のはしくれにもならない」
松永自身、全部を経験してきているだけに台詞に迫力があるが、では、なぜ実業人になるために、この3つの関門が必要なのか。
まず、闘病生活から見ていくと ――
闘病
健康な者は死を考えないが、この死を、否応なしに鼻の先へ突きつけられるのが病床である。
死との闘いは自分独りでやるしかない。どんな見舞いを受けても、厳しい孤独感に身を苛まれる。
この厳しい孤独が長々続くと、得てして他人は頼りにならないと思い込み、それが進むと、人間不信に陥り、自閉症的な一生を送るようになる。
そうなったのでは、実業人としては失格である。
人間は本来孤独であり、死ぬべき運命にある、という自覚を持つことは、そのことで悲観的になったり、厭世的になるためではない。
逆に、死は生を確認させる。つまり、死を念頭に置くことによって、自分の生が真に“生”の名に値するかどうかを問うのである。
東芝社長の岩田弐夫は心筋梗塞で、死ぬか生きるかの境目を彷徨した。