2018年10月号掲載
米朝首脳会談と中国、そして日本はどうなるのか
著者紹介
概要
これまでの対中国政策は誤りだった! 今、アメリカのメディアや専門家、そしてトランプ政権からこんな声があがっている。では今後アメリカは、軍備増強、国際規範の無視、独裁の強化を進める中国と、どのような関係を築くのか? 米中をよく知るジャーナリスト・古森義久氏が、トランプ政権の外交の真意を考察する。
要約
アメリカの対中政策が変わった
アメリカが、ついに中国に対してキバをむいた ―― 。今のトランプ政権の中国への姿勢をわかりやすく描写すれば、こんな表現がふさわしい。
2018年5月。アメリカの対中政策は、決定的なパラダイムシフトをとげた。
1979年の米中国交樹立以来、40年近く、アメリカの歴代政権が保ってきた政策が失敗だったという判断が超党派で下されたのである。
対中「関与政策」の破綻
では、歴代政権の中国に対する政策とは何か?それは「関与(Engagement)政策」と呼ばれる。
中国は共産主義体制である。だが、アメリカが中国をより豊かに、より強くすることを支援し、既成の国際秩序に招き入れる。そうすれば、中国はやがては民主主義の方向へと歩み、国際社会の一員になる ―― というのが関与政策だった。
だが、この政策が終わりを告げ始めた。対中関与政策はもはや破綻したと断じられるようになったからだ。なぜ、関与政策は失敗したのか?
その理由は、ひとえに中国側の動きにある。今の中国は米側の期待と正反対の方向に進んでいる。その象徴が、憲法を改正して決めた国家主席の任期の“撤廃”だ。これで習近平氏は終身の独裁者になれるわけで、民主主義とは逆方向の流れだ。
それだけではない。近年の中国は侵略的な対外膨張、野心的な軍事力増強、傍若無人な国際規範の無視、一方的な経済面での不公正な慣行、そして国内での弾圧と独裁の強化など、アメリカの望みを踏みにじるような措置ばかりを取ってきた。
こうした展開が、米側でこれまでの対中政策の破綻を指摘させるようになった。
鮮明化する対中関与政策の排除
ニューヨーク・タイムズは2018年2月の社説で、アメリカの歴代政権の対中政策は失敗だったと明言した。ワシントン・ポストも2月の社説で、アメリカの年来の政策の破綻を強調した。
オバマ政権の対中政策を担ったカート・キャンベル氏は、「中国はいかにアメリカの期待を無視したか」と題した論文で次のように述べた。