2018年10月号掲載
これからの未来を生きる君たちへ
著者紹介
概要
脳科学者の茂木健一郎氏が、脳を活性化させる秘訣を説いた。自分と違う考え方をする人と出会う、失敗は自らの個性を知るチャンス、脳の「楽観回路」を育てる…。長年にわたる研究成果を基に、脳の働きを高め、変化の時代を生きるヒントが示される。若者はもちろん、創造的な生活を送りたいと願う中高年にも参考になる書である。
要約
脳の働きを高めて、未来を生きる
未来を生きる人というのは、若い人に限らない。70歳になってから大学に通い始める人もいる。80歳を過ぎて、スマホのアプリ開発を始める人もいる。
今は、人工知能における「シンギュラリティー」(技術的特異点)という概念に象徴されるように、劇的な変化の時代だ。そんな時代に、脳を活性化させ、うまく未来を生きるためのヒントを示そう。
脳には、変わることを支える力がある
私は、人は変われると思っている。そして、脳科学の研究で、人間の脳にはもともと、変わることを支える力があることがわかっている。
では、どうしたら変わることができるのか。
カギになるのは、「偶有性」である。偶有性とは、半分は規則的で、あとの半分は偶然に左右されるということ。例えば、人の会話がそうだ。会話は、ある程度はそれまでの流れなどから決まるが、残りはどう展開していくかわからない。この「どうなるかわからない」ことを、脳は大事な要素として動いている。
逆に言えば、決まり切ったことばかりだと、脳本来の働きが死んでしまう。偶有性の中でうまく生きていくために、脳は進化してきたからだ。
読者の中には、自分の能力はもう決まっている、と思っている方も少なくないだろう。仮に「自分は英語が苦手だ」と思い込んでいる人がいるとする。これは断言するが、生まれつき「英語が苦手な脳」は存在しない。単に、英語を学ぶ方法をまだ見つけていないだけのことだ。「勉強が苦手な脳」も「人間関係が苦手な脳」もない。
もちろん、人間の脳はある程度、遺伝子で決まっている。例えば知能指数でいえば、一卵性双生児の調査で、全体の50%が遺伝子で決まる、とされている。しかし、あとの50%は、生まれた後に何を経験し、学ぶかで変わってくるのだ。
人格は「巡り会いの総体」
同様のことは、性格についてもいえる。
性格は生まれつきのもの、と思われがちだが、人は変わることができる。アメリカで行われた研究で、現在では、性格形成における親の影響は2割、他人の影響が8割といわれている。
今あるあなたは、遺伝子で決まっているのではない。これまでの人生で出会った人々、あるいは感動した映画や強い影響を受けた本、そういうものとの「巡り会いの総体」として、今ここにある。