2019年3月号掲載
ブロックチェーン、AIで先を行く エストニアで見つけた つまらなくない未来
著者紹介
概要
欧州の共和制国家・エストニア。人口わずか130万人余りのこの国は、IT立国を掲げ「電子政府」を実現したことで、今、世界中から注目を集めている。サインも紙の契約書もない。行政手続きの99%はオンラインで完結…。近未来を先取りする革新的な取り組みの数々は、いかにしてなされたのか。現地を取材した記者が報告する。
要約
「電子政府」国家・エストニア
欧州バルト三国の一国、人口わずか約130万人のエストニアが今、世界から注目を集めている。なぜなら、1991年に旧ソビエト連邦(旧ソ連)から独立した後、IT立国を掲げ、見事「電子政府」を実現させた国だからだ。
「ハンコ」も「紙の契約書」もない国
あるエストニア人女性は、次のように言う。
「私たちの国には、ハンコもサインもないのよ。行政書類も契約書類にも、すべての書類にコンピューターを使って電子署名をするの」
エストニアの“ハンコ”といえば、暗号技術を利用した「電子署名」である。同国ではこの電子署名が普及し、紙の書面による契約の締結はなくなった。電子署名は自著と同じ効果があるため、EU内では電子署名がハンコの代わりとなる。
同国では、ハンコや紙の契約書の他にも、消えていった、もしくは消えつつあるものが多々ある。例えば、現金、確定申告用紙、薬の処方箋などだ。
出生から10分で国民ID番号を付与
日本では子どもが生まれると、出生届の提出や健康保険の加入など、煩雑な申請手続きを1つずつ行わなければならない。
だが、エストニアの場合は違う。なんと、申請がすべて自動で行われるのだ。
同国では、子どもが生まれると、病院側がオンラインによる国民登録手続きを行う。出生のタイミングで、自動的に国民ID番号が付与されるのだ。このID番号は11桁からなり、今後の行政サービスを利用する上で欠かせないものである。
そして、子どもの誕生から約10分後には、政府から「お祝い」のメールが届く。これは、自動的に国の子育て支援に関する制度への申し込みが終わったことを意味する。つまり、自分から申請せずとも、政府からの支援金を得られるのである。
出生だけではない。死亡したり、職を失ったりした場合など、行政手続きの99%をオンラインで済ますことができる。基本的に24時間365日稼働しており、時間に縛られない。それによって、日本のような煩雑な手続きをしなくて済むのだ。
カギとなる電子身分証の存在
電子政府化を実現する上で欠かせないのが、本人を確認する認証機能である。そのカギとなるのが、カード型の電子身分証明書(デジタルID)だ。このカードが運転免許証や健康保険証になり、しかもEU内では身分証明書にもなる。