2019年11月号掲載
お金に困らない人生をおくる ライフサイクル投資術
Original Title :LIFECYCLE INVESTING:A New, Safe, and Audacious Way to Improve the Performance of Your Retirement Portfolio
著者紹介
概要
資産を運用する際、資金を様々な投資対象に分ける“分散投資”は、リスクを減らすために多くの人がやっていることだろう。これをもう一歩進めたものが、「時間の分散投資」だ。「若い間はお金を借りて株を買おう」。そう主張する著者らが、長期にわたる投資でリスクを減らしつつ、リターンを高める方法を詳述する。
要約
お金を借りて株を買おう
1986年、イェール大学の台所は火の車だった。節約のため、社会学科を閉鎖する案が出たほどだ。
その頃、イェールの寄付基金は10億ドルだった。新しい運用担当者のデイヴィッド・スウェンセンが寄付基金の運用を見た時、50%は米国の株、40%は米国債と社債に投資されていた。「ぜんぜんなっちゃいない」、それが彼の考えだった。
問題は2つあった。第1に、過去、株は債券を上回る実績を(少なくとも長期では)出していたから、基金のポートフォリオには株が足りていなかった。第2に、ポートフォリオには分散投資が足りていなかった。90%は国内の資産で、外国資産がほとんど入っていない。
様々な資産をうまく持ってリスクを分散させれば、同じリターンがより低いリスクで手に入る。あるいは、同じ量のリスクで高いリターンが手に入る。スウェンセンが選んだのは、後者の作戦だ。
22年後、彼が運用する寄付基金は220億ドルに成長した。もしもイェール大学が定石通りの株の割合に従っていたらどうなったか。資産はたった60億ドルにしかなっていなかった ―― 。
時間の分散投資
本書の目的は、あなたの老後資金について、これと同様のことをあなたが達成するお手伝いをすることだ。僕らは分散投資をもう1歩進める。それは「時間の分散投資」である。時間の分散投資は、資産の分散投資とよく似たアイディアだ。
貯めたお金をまとめて全部、株の銘柄1つにつっこむのは間違いだろう。同様に、株式市場へのエクスポージャー(リスクにさらされている投融資等のこと)をある1年にまとめて取るのは無茶である。もし、その年に市場が急降下すれば、あなたはおしまいだ。株式への投資は、何十年にもわたって行う方がずっと安全だ。
でも、ほとんどの人はこの「わたって行う」ことがうまくやれない。投資金額を見ると、若い間は老いてからに比べて市場にほとんど投資しない。
時間軸上での分散投資という切り口で見ると、若い時に5万ドル投資して、年を取ってから100万ドル投資するより、若い時に10万ドル投資して、年を取ってから95万ドル投資する方がずっといい。2つの時点を合わせた市場へのエクスポージャーは同じだが、エクスポージャーは長期にわたって分散されている。
実証的に見ると、ほとんどの人は株式市場へのエクスポージャーをもう20年分増やした方が、リスク分散効果で安全な投資ができるのに、実際にはそうしていない。リスクを長期にわたって分散する代わりに、彼らは現役である時間の最後の10~20年に集中してリスクを取っている。
これには理由がある。若い時には先立つものがないのだ。そこで、この問題を解決するアイディアを提唱しよう。それは「若い間はお金を借りて株を買おう」ということだ。