2020年2月号掲載
身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質
Original Title :SKIN IN THE GAME
著者紹介
概要
「身銭を切る」とは、本書によれば、リスクを背負い、結果の良し悪しに関わらず、その報いを受けること。だが、高みの見物ばかりで、何のリスクも冒さない政治家や学者は多い。「身銭を切ることは、この世界を理解する上で欠かせない条件」。こう述べる哲学者が、不確実の時代、どうリスクと向き合い、生きるべきかを説く。
要約
「身銭を切る」とは何か
ギリシア神話に登場する巨人、アンタイオス。地母神ガイアと海神ポセイドンの息子である彼には、奇妙な日課があった。通りがかりの者に格闘を挑んでは、殺していたのだ。
アンタイオスは無敵とされていたが、そこにはあるカラクリが潜んでいた。彼は母なる大地に足を着けることで、力を得ていたのだ。地から足が離れたとたん、アンタイオスはみるみる力を失っていった…。
このエピソードが象徴しているのは、どんなものも、「地に足の着いたものでなければならない」ということだ。
では、どうすれば地に足を着けていられる ――実世界との接触を保っていられるのか?
「身銭を切る」ことだ。つまり、実世界に対してリスクを背負い、よい結果と悪い結果のどちらに対しても、その報いを受ける、という意味である。あなたが身に負った切り傷は、学習や発見の助けになる。
私たちがいじくり回し、試行錯誤や実体験、時の営みによって得る知識、つまり地に足を着けることで得る知識は、純粋な推論を通じて得られる知識よりも、ずっと優れている。
そして、身銭を切ることは、この世界を理解する上で欠かせない条件である。
アンタイオスなきリビア
上述のアンタイオスの逸話から数千年後の現在、彼が暮らしていたとされる地、リビアには、奴隷市場が存在する。“独裁者を排除する”ための、いわゆる“政権交代”が失敗に終わった結果だ。
2003年のイラク侵攻や2011年のリビア最高指導者の排除を推し進めた「干渉屋」と呼ぶべき連中(“助けるため”だと言って他人の問題にちょっかいを出したがる連中)は、シリアなどの別の国々に対しても、似たような強制的な政権交代を支持している。
こうした干渉屋や、アメリカ国務省のお仲間たちは、反体制イスラム教組織の誕生、訓練、支援に手を貸した。当初、この組織は“穏健派”だったが、やがてアルカイダの一部へと姿を変えていった。そう、2001年9月11日のテロ事件で、ニューヨークのタワーを吹っ飛ばした例のアルカイダだ。
アルカイダは、もともとアメリカがソビエト・ロシアと戦うために育てた“穏健な反体制派”によって構成された。だが、干渉屋たちはどういうわけか、そんなことをすっかり忘れているらしい。こういう教養人たちは、影響の影響、そのまた影響…を考えるようにはできていないからだ。