2021年5月号掲載
思考からの逃走
- 著者
- 出版社
- 発行日2021年2月19日
- 定価1,760円
- ページ数255ページ
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著者紹介
概要
AIが正解を与えてくれる ―― 。就職や結婚をはじめ、意思決定をAIに任せる若者が増えている。社会が複雑になった今日、自分で考えるよりも確かで、失敗のリスクを減らせるからだ。今後も意思決定の外部化は進むだろう。では、その行き着く先は? 急速に進む社会のAI化について述べ、「考えを手放すこと」について考察する。
要約
意思決定を放棄する私たち
「就職先を決めてください」と、よく学生に言われた一時期がある。
そのたびに、「就職先は自分で決めようよ」と学生を諭した。だが、いまの学生にそういう傾向があるのは仕方がない面がある。彼らはあまり失敗が許されない環境で育ってきた。いまの教育は、児童や生徒に挫折させることを良しとしない。
こうした社会に対峙するには、成功することよりも、失敗しないことの方が肝要である。失敗しないためには、主体性など持たない方がいい。
だが最近、そうした声を聞くことが減った。学生が主体的になったからではない。教員よりも良い相手を見つけたのだ。それは、AIだ。
より良い模範解答を求めて
実際、「AIが正解を与えてくれる」という意識は強くなっているように感じる。
「あなたが就職・転職をする際に、自分に向いている企業を示してくれるAIがあったら使うか?」というアンケートを学生・社会人に行った。結果は、「無料なら使う」(65%)、「有料でも使う」(25%)と、回答者の9割がAIに就職先を相談したいと考えていた。
また、結婚相手を探す際、AIを使ったマッチングサービスを利用することは当たり前になった。リアルの、狭い交友範囲の中で交際相手を探すよりも、数百~数千倍の母集団から、年収や性癖などの属性情報と条件によってマッチングをした方が、自分の希望に合う相手は見つけやすい。
なぜ若者は思考を放棄したのか
なぜ、若者がこうした行動様式をとるようになったのか? 象徴的な出来事が作用している。
AIに負けることはないと思われていたチェス、将棋、囲碁で、次々と世界のトッププレイヤーがAIに敗れた。Googleの描画AIは難解な抽象画を描き、合成音声は曲調と視聴環境によっては、人の声と聞き違えるほどの精度になった。
Twitterの利用が一般化して、個人と世界が直接接続される社会になった。そんな中、下手に発信すると、世界中から叩かれる怖さも味わった。
こうした要素が組み合わさると、自分で考えるのが怖くなる。まして、自分より良い判断をしてくれるシステムがあるならば、それを利用するのはある意味で当然のことであるともいえる。