2021年8月号掲載

レイシズム

Original Title :RACE AND RACISM

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著者紹介

概要

ある人種は生まれながらに優秀で、他の人種はそうではない。レイシズムは、こうした優劣が人種ごとにあるとする。だがそれは、根拠のない偏見に過ぎない ―― 。ナチス台頭の時代、文化人類学者の著者はそう指摘し、レイシズムの迷妄を明らかにした。本書が鳴らした警鐘は、社会の断絶が深まっている現代にも通じるものである。

要約

現代社会におけるレイシズム

 文化人類学の授業を担当していれば、誰だってこんな経験がある。

 学生たちに「国や民族に優劣などあるわけがない」と教える。すると、誰かが言う。「そうは言っても、ニグロと白人は違うじゃないですか?」

 そうなると、人類学者は例の言葉を繰り返さなくてはならない。「人種間に差異があることと、優劣があることは違います。差異については科学の対象ですが、生物学的に優劣があるなどというのは、無根拠な偏見です」と。

 立派な教育を受けた人であっても、人種差があるということと、人種に上下があるということの違いがわからないでいることは珍しくない。

ヨーロッパ文明がレイシズムを生んだ

 長い歴史の中で、人類は互いを殺し合うための様々な理由を探し出してきた。人間の身体的特徴を戦争や迫害の根拠として挙げ、さらにそれを実行に移したのは、ヨーロッパ文明が初めてである。レイシズムは、西洋人がこの世に産み落としたものである、と言い換えてもいい。

 「新約聖書」は人間を2つに分けた。善をなした者と、悪をなした者に。私たちの時代の新方式も人間を2つに分けるが、その線を引くのは遺伝的な身体の特徴、すなわち頭蓋骨の形状、皮膚の色調、鼻の形、髪質、瞳の色だ。

レイシズムは人間に優劣を押し付ける

 レイシズムは、カルヴィニズムの再来である。カルヴィニズムは、16世紀の宗教家カルヴァンの影響下に形成されたキリスト教の一派で、人間の意志とは無関係に神の救済はすべて決定されているとする「予定説」が教義に含まれている。

 レイシズムは、一方の集団に絶対的優越性を刻印して、もう一方に劣等性を押し付ける。相手方が敵意を持っているかどうかは関係ない。出自が違うというだけで、自分たちに敵対する側の存在ということになってしまうのだ。

 レイシズムは、今日の市民がみな等しく曝される教説(イズム)である。どちらの側に立つのか、曖昧なままにはできない。この問いにどんな答えを出すか、それによって未来の歴史は描かれていく。

 

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