2021年9月号掲載
監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い
Original Title :THE AGE OF SURVEILLANCE CAPITALISM:The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power
著者紹介
概要
グーグルは、人間を操り人形にする ―― 。今日、生活に欠かせないデジタル機器は、あらゆる行動データを巨大IT企業にもたらす。そして、私たちの行動は監視され、操られてさえいる。これを「監視資本主義」と名付けた著者が、現状を説き、未来を見通した。ハーバード・ビジネススクール名誉教授の手になる世界的ベストセラー。
要約
デジタルの未来は暗黒?
2000年、ジョージア工科大学のコンピュータ科学者たちのグループが、「アウェア・ホーム(Aware Home)」と呼ぶプロジェクトを行った。家中に埋め込まれたセンサーのネットワークと、居住者が着用するウェアラブル・コンピュータによって、人と家との共存を図る。それが目的だ。
それから18年を経た2018年、グーグルは、ホームオートメーションシステムを手がける会社、ネストを吸収合併した。同社のサーモスタットは、アウェア・ホームの実験で想像された多くのことを実現する。例えば、自動車、オーブン、ランニングマシン、ベッドといった製品からデータを集め、居住者の行動を「学習する」。
プライバシーはどこへ?
ネットワーク化されたサーモスタットが生み出す膨大なデータは、グーグルのサーバに送信される。それぞれのサーモスタットには「プライバシーポリシー」が付属する。それらが明らかにするのは、極めて一方的なプライバシーの扱いだ。
いわく、「機密情報を含む家庭や個人の情報は、(中略)他の特定されていないサードパーティへの販売を目的として、他のスマートデバイス、匿名の個人、サードパーティと共有される…」。
かつてのアウェア・ホームは、より快適な生活を約束するデジタルの未来を想像させた。最も重要なことは、それが、個人のプライバシーの保護を前提にしていたことだ。しかし現在、ネストのプライバシーポリシーに見られるように、個人情報に対する権限は、図々しい企業に強奪された。
この大きな変化は、人類の未来にとって何を意味するのか。その問いに答えるべく、デジタルの夢が暗黒化し、かつてない貪欲な商業プロジェクトへと変化しつつあることについて述べていく。
その貪欲なプロジェクトを私は、「監視資本主義」と名づけた。
監視資本主義には商業目的がある
監視資本主義はテクノロジーではない。それは、テクノロジーを動かす「論理」である。
これは重要なポイントだ。なぜなら、監視資本主義者は、自らの活動は自らが採用するテクノロジーの必然的な結果だと、私たちに思い込ませようとするからだ。
例えば2009年に私たちは、自分の検索履歴をグーグルが永遠に保持できることに初めて気づいた。グーグルの前CEOエリック・シュミットは、そうした活動について問われると、こう答えた。
「グーグルを含む検索エンジンは、一定期間そうした情報を保持するというのが現実です」