2022年4月号掲載
AI監獄ウイグル
Original Title :THE PERFECT POLICE STATE
著者紹介
概要
「脳からウイルスを取り除いて、正常な精神を回復させる」。中国の新疆ウイグル自治区では、中国政府がAIと監視テクノロジーを駆使し、少数民族を徹底的に弾圧している。スマホのハッキング、IDカードのスキャン、そして劣悪な強制収容所。世界が知らない、ウイグルの恐るべき実態を、調査報道ジャーナリストが報告する。
要約
ウイグル人の1日
中国西部の新疆ウイグル自治区。
ここでは、2017年以降、推定180万人のウイグル人、カザフ人、その他のイスラム系少数民族の人々が、「テロリスト思考」などをもっていると中国政府から糾弾され、地域にある何百もの強制収容所に連行されている。それは第2次世界大戦中のホロコースト以来、史上最大規模の少数民族の強制収容だ。
そして、たとえ収容所送りを免れたとしても、新疆での日々の生活は地獄だ。
政府から派遣された監視員が、あなたの隣に
あなたがウイグル人の女性なら、政府から派遣されてきた見知らぬ男性の隣で毎朝目覚めることになるかもしれない。彼は、収容所に連行されたあなたのパートナーの代わりを務める人物だ。
毎朝、この監視員は忠誠心や共産党との友好関係など、国家の美徳をあなたの家族に教え込む。監視員は様々な質問をして、あなたの“成長”をチェックし、政府が呼ぶところの「3つの悪」(テロリズム、分離主義、過激主義)に“感染”していないかを確かめる。
朝の教化活動が終わると、近隣の10軒の家に眼を光らせるよう国から任命された地域自警団の役員が、あなたの家をチェックする。
一体化統合作戦プラットフォーム
出勤前に車でガソリンスタンドに寄っても、食料品店に行っても、どこでもあなたは、入口に立つ武装警備員の前でIDカードをスキャンすることになる。カードをかざし、スキャナー横の画面に「信用できる」と表示されると、入店できる。
「信用できない」と表示された場合、すぐに統計データ記録がチェックされ、場合によっては、さらなる問題に直面することになる。例えば顔認証カメラが、ビールの6缶パックを買うその男性の姿を記録しており、アルコールに関する問題がある人物だと人工知能(AI)が疑っているのかもしれない。しかし、なぜ「信用できない」と表示されたのか、明確な理由はわからない。
次に警察官がやってきて、「信用できない」男性を尋問する。警察官は「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」と呼ばれるプログラムを使い、スマートフォンで男性の身元を確認する。
IJOPのデータベースには、何百万台ものカメラ、裁判記録、市民の内通者などから政府が集めたマスデータ(大規模データ)が構築されており、それらすべてのデータがAIで処理される。
AIが、その男性が将来的に何らかの罪を犯すと判定すると、警察官は男性を連行する。その男性は「再教育」を終えて戻ってくるかもしれないし、あるいは二度と戻ってこないかもしれない。