2022年8月号掲載
逆境を楽しむ力 心の琴線にアプローチする岩出式「人を動かす心理術」の極意
著者紹介
概要
大学選手権で10回の優勝を誇る帝京ラグビー部。強さの秘訣は、26年間チームを率いた著者の心理学的マネジメント術にある。内発的動機、ナッジ、心理的安全性…。紹介されるこれらの手法は、ビジネスにも応用可能だ。また、「Z世代(1996年以降生まれ)」への向き合い方や、逆境時の心の整え方なども、マネジメントの参考になる。
要約
Z世代とは何者か?
私が監督を務める帝京大学ラグビー部は、2009年度から2017年度まで、大学選手権で9連覇を達成した。しかし、2018年度に連覇が途切れ、そこから2020年度まで日本一から遠ざかった。
連覇中、私たちは常に組織にイノベーションを起こそうとしてきた。連覇を継続できたのは、新しいことに挑戦しようという組織文化があったからだ。しかし、組織風土や文化は気づかないうちにほころんでいることもある。大学日本一から陥落した最大の原因は、組織の構造やマネジメント、文化のほころびにあったと考えている。
誤算は2つあった。「Z世代への対応」と「心理的安全性」である ―― 。
多感な時期に強烈な不安体験
Z世代(1996年以降生まれ)は、幼少期からスマートフォンやSNSを自在に使いこなすデジタルネイティブであることが最大の特徴である。
一方で、Z世代は少年期や青年期にかけて、不安な出来事がたくさんあった。ITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍。こうした時代背景は、Z世代の性格や性質の形成に少なからぬ影響を与えていると思う。
意義や意味を明確にする
Z世代を導く際に重要なことの1つは、取り組みの「意義」や「意味」を明らかにして、行動の「価値」に「納得」してもらうことである。命令や指示によるコントロールが利きにくく、納得しないまま何かを強制されることをとても嫌う。
上司の命令に絶対服従が当たり前だった時代は、行動の意味や意義についての「納得感」は今ほど問われなかった。納得感がより必要になったのは、警戒心が強いこと、一人っ子で大事に育てられたことなどが影響しているのかもしれない。
一方、Z世代は地球温暖化問題など、環境・社会課題に対する関心が高い。また、ボランティアへの参加意欲もある。彼らは、自分以外の誰かのために活動することで感謝されたいという「承認欲求」を満たそうとしているのかもしれない。
人に感謝されることに喜びを見いだしていくと、「利他の精神」が芽生える。利他の精神とは、目の前の相手や周りの人のために、自らが何かをしていこうとする心がけのこと。Z世代を導いていくには、社会貢献欲求、自己承認欲求をくすぐり、利他の精神を育てていくことが肝になる。
Z世代のモチベーション・マネジメント
私は2020年から、モチベーション・マネジメントをZ世代向けに見直した。人は誰でも、外部の世界や人間に対して警戒感や不安感を持っているが、Z世代はその傾向がやや強い。従って、今まで以上に、その点に配慮して接する必要がある。