2022年10月号掲載
ストレス脳
Original Title :Depphjärnan:Varför mår vi så dåligt när vi har det så bra?
- 著者
- 出版社
- 発行日2022年7月20日
- 定価1,100円
- ページ数255ページ
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著者紹介
概要
今日、メンタルの不調は深刻な問題だ。世界保健機関(WHO)の試算によると、世界でうつに苦しむ人は2億8000万人。豊かな現代社会で、なぜ多くの人が心を病むのか? 精神科医が“脳”の見地からその答えを探った。人類の進化の過程で脳が果たしてきた役割、孤独がもたらす影響などを考察しつつ、心と脳の関係を解き明かす。
要約
なぜ人間には感情があるのか
私たちは贅沢な暮らしをしている。飢餓や戦争は多くの場所で淘汰され、かつてないほど健康に長生きできるようになった。
それなのに多くの人が心を病んでいる。世界保健機関(WHO)の試算によると、世界で2億8000万人がうつに苦しんでいる。あと数年もすれば、うつが他のどんな病気よりも大きな地球規模の疾病負荷になるという。人はなぜ、心を病むのか?
扁桃体が危険に目を光らせる
仕事を終えて帰宅するところを想像してほしい。あなたは、道路を渡ろうとする。しかしその時、突然目に見えない手に引っ張られたかのようにぱっと後ろに跳びのいた。その前をバスが通り過ぎていく。危うく轢かれるところだった ―― 。
何が起きたのか。何かが、あなたに「後ろに跳びのけ!」と命じたのだ。救い主は、アーモンドほどの大きさの「扁桃体」と呼ばれる脳の部分だ。
この扁桃体の重要な役割に、知覚から入ってくる情報を処理して、周囲の危険に目を光らせておくというものがある。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚への刺激は扁桃体に直接送られるので、脳の他の部分が情報を処理する前に自分が見て、聞いて、感じているものを把握している。
だから扁桃体は、視覚に入ってきた刺激が深刻なものであれば、脳の他の部分よりも先に反応する。例えばバスが猛スピードで向かってきたら、扁桃体は即座にあなたを跳びのかせるのだ。
感情が人を動かす
脳の側頭葉には「島皮質」という、脳の中でもとりわけ興味深い部分が存在する。島皮質は中央駅のような存在で、身体から心拍数、血圧、呼吸数など様々な情報を受け取る。知覚からも情報が送られてくる。つまり、島皮質で私たちの内と外の世界が溶け合うのだ。そこで感情が生まれる。
感情というのは、自分の周囲で起きていることに反応してほとばしるのではなく、脳が私たちの内と外の世界で起きていることを融合してつくり出すのだ。その感情を元にして、脳は私たちに生き延びるための行動を起こさせる。
つまり、感情というのは実はただの「任務」にすぎない。生き延びて遺伝子を残せるように、脳が感情を使ってその人を行動させるのだ。
脳の重要な任務は「生き延びること」
脳の中を覗いてみると、意外な働きをするのは感情だけではない。心理学や神経科学の研究では、脳が記憶を変化させることもわかっている。集団に属しておくために、不快な真実に対して目をつむらせるのだ。自分は優れていると思わせることも多い。実際よりも能力が高い、と。
つまり、脳は世界をあるがままに解釈させてくれない。それよりも重要な任務 ―― 生き延びること ―― があるからだ。だから生き延びるための視点でしか世界を見せてくれない。