2022年11月号掲載
【新装版】日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか
著者紹介
概要
カルト教団に酷い目に遭わされたり、最悪、殺されたり…。こうした事態を招くのも、日本人が宗教を知らないから、と語る著者が、日本人が知っておくべき宗教の「根本原理」を説いた。オウム真理教などの問題がクローズアップされた2000年に刊行され、読み継がれてきた書の新装版。知の巨人・小室直樹氏ならではの解説書だ。
要約
宗教は恐ろしいものと知れ
日本の宗教学者・宗教評論家は、宗教の〈本質〉を理解していない。カルト教団に酷い目に遭わされたり、殺されたりする人の話は、もはやいちいち驚くには当たらないほど、日常のニュースに上るようになった。このような事態を招くのも、日本人が宗教を知らないことに起因する ―― 。
オウムが仏教でない理由
日本の宗教家や宗教学者がどんなに宗教無知であるかは、彼らのオウム真理教に対する反応を見れば明らかである。彼らのうち、ただ1人も、「オウムは仏教ではない」と断言しなかった。
オウムは「地獄は実在する」としていた。そして「地獄に堕ちるぞ」と信者を脅して金を巻き上げたり、殺したり、犯罪を命じたりしたのだった。
地獄は実在しない。人を導くための譬え話として仮に考えたものにすぎない。仏教はこのように考えている。オウムは仏教を標榜しているのだから、当然、このように教えなければならないはずなのに、オウムはそうは教えなかった。だから、「オウムは仏教ではない」と、すぐピンと来なければならなかった。だが、誰もそうならなかった。
仏教は実在論を否定する。人間の心の外に実在するものは何もない。これが仏教の入門の初歩の初歩であるとともに、仏教の極意でもある。
宗教、このうえもなく恐ろしいもの
では、宗教とはいかなるものか。
宗教とは、このうえもなく恐ろしいものだ。これが宗教理解の要諦である。そして、欧米ではこれが常識だ。ところが、日本人は宗教を自分に幸せをもたらしてくれる素晴らしいものと独り合点している。これこそが、宗教誤解の第一歩である。
一例を挙げる。15~17世紀後半の大航海時代、コロンブスやマゼランが未知の国へ向けて航海した。新大陸に上陸した彼らは、一体何をしたか。正解は、罪もない現地人の大虐殺である。
例えばプエルトリコの軍事資料館には、コロンブスが上陸した頃、この島の現地人をどのようにスペイン人が扱ったか、その図解が展示されている。現地人たちの首と両手両足を切り落とし、串ざしにして豚の丸焼きのごとく焼肉とした。こんな例は至るところにある。
なぜ、そんなことをしたのか。その答えは、『旧約聖書』の「ヨシュア記」を読むとわかる。
神は、イスラエルの民にカナンの地を約束した。ところが、イスラエルの民がエジプトにいるうちに、カナンの地は異民族に占領された。そこで、「主(神)はせっかく地を約束してくださいましたけれども、そこには異民族がおります」といった。すると神はどう答えたか。「異民族は皆殺しにせよ」といったのだ。神の命令は絶対である。となれば、異民族は皆殺しにしなくてはならない。