2023年1月号掲載
考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える
著者紹介
概要
著者は、福島原発「国会事故調」委員長を務めた黒川清氏。氏は言う。「この30年間、日本は世界の変化に対応することができていない」と。世界の経済や科学研究が激変する一方、日本の大学の国際競争力や、科学技術力は凋落の一途を辿る。本書では、こうした低迷の背景にあるものを考察、日本が変わるための処方箋を示す。
要約
時代に取り残された日本の教育現場
世界を見ると、政治や経済、産業、教育など、社会の様々な領域がこの30年間で激変している。
一方、日本の社会と日本人の思考は、旧態依然として変わったようには見えない。それが、日本に「失われた30年」をもたらしたのではないか。
日本が抱えるいくつかの問題を解決しなければ、日本の復活は難しくなるだろう。
世界水準から後れをとる日本の大学
問題の1つは、日本の大学の国際競争力が著しく低下していることである。
英国の教育専門誌が発表している「世界大学ランキング」の2022年版によれば、世界1600校以上のうち、トップ200以内に入っている日本の大学は35位の東京大学と61位の京都大学のみ。2015年版までは5つの大学が入っていたが、2016年版からは2校のみの状況が続いている。
真の高等教育を受けられない日本の学生たち
なぜ、このような体たらくなのか。原因の1つは「真の高等教育」が行われていないことだ。
欧米の大学は日本のような理系と文系の区分はなく、学生は広く「リベラル・アーツ」を学ぶ。リベラル・アーツは単に知識を学ぶのではなく、複数の領域や文化を行き来して答えのない問題を解決したりする能力を養成することを指す。
例えば米国のトップ大学の多くでは、1、2年の時にプラトンの『国家』などの古典を読むことを要求される。そして講義の9割が、その内容をめぐる学生同士の「議論」に費やされる。
一方、日本の大学では、授業は教師から学生に一方的に知識を流し込むものが主流で、学生が自ら考えて意見を述べ、議論することはほとんどない。その知識すら、大学に入る時に理系と文系とに分かれているため、特定の分野に偏っている。
日本の大学は入る時は難しくても卒業することは容易で、学生は入学後、あまり勉強をしない。
これを示したデータがある。全国大学生活協同組合連合会が2018年に行った調査によれば、大学生の読書時間の平均は1日30分。恐るべきことに、48%が読書時間は「0分」と答えている。