2023年2月号掲載
幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門
Original Title :The Happiness Trap:Stop Struggling, Start Living (2007年刊)
著者紹介
概要
統計によれば、人生で幸福な時は稀。仕事のストレス、人間関係など悩みは尽きない。だが多くの人は、自分以外は皆幸福だと信じ、さらに不幸になる…。この「幸福の罠」を脱するカギが「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」。自分の思考を客観視するなど、心理的柔軟性を増すための考え方、手法を本書は紹介する。
要約
「幸福の罠」を支える神話
おとぎ話の結末。それは大抵、「そして彼らは幸福に暮らしました」で終わる。
ハッピーエンドはおとぎ話だけではない。映画もテレビも小説も、ヒーローが悪人を打ち負かし、愛がすべてを支配する。そうした結末ばかりだ。
「人生は幸福であるべきだ」?
私たちがハッピーエンドを好むのは、社会が「人生は幸福であるべきだ」と迫るからだ。だが、実は、これは「幸福の罠」なのだ。
私たちの文化は、人間は幸福な状態が自然であると主張する。しかし、統計はこれを明確に否定している。成人の10人に1人が自殺を試み、人が精神疾患を患う可能性は30%近い。これに、孤独、離婚、仕事のストレス、人間関係などを加えれば、人生において幸福は稀なものだといえる。
だが、多くの人は自分以外はみな幸福だと信じてやまない。この信念が、人をさらに不幸にする。
「ポジティブに考えれば幸福になる」?
また、社会は「良い気分」を重んじる。社会は私たちに、ネガティブな感情を追い払い、ポジティブなもので満たせ、と命じる。
一見理に適っているが、問題がある。人生で価値あるものは、喜ばしい感情と不快な感情の両方を伴う。例えば、親密な関係では愛と喜びを経験するが、失望も避けられない。完璧なパートナーなどいない。遅かれ早かれ、利害の対立が始まる。
自分の思考や感情をコントロールする力は弱い。あなたも、物事をポジティブに考えようと試したに違いない。だが、ネガティブな考えはいつも戻って来たのではないか?
これは怒り、恐れ、悲しみ、不安、罪悪感などにも当てはまる。これらネガティブな感情が消え去っても、しばらくすると戻ってくる。再び追い出す。だが、また現れる。この繰り返しだ。さらにまずいことに、思考や感情のコントロールに失敗すると、自分は無力だという思いが強くなる。
こうした「幸福の罠」は、私たちを決して勝ち目のない闘争、人間性との戦いに駆り立てる。